早めに始めると長い目で見て良いんです ~小児ダニアレルギー性鼻炎に対する「舌下免疫療法」~
舌下免疫療法ってなに?
お子さんのつらい「鼻水・鼻づまり・くしゃみ」、実は体質から改善できる治療法があります。それが舌下免疫療法です。
ダニ(ハウスダスト)アレルギーの原因となるエキスが含まれた錠剤を毎日1回舌の下に含み、少しずつ体をアレルゲンに慣らしていく治療法です。おうちでできて注射の必要もなく、小さなお子さんでも5歳頃から始められます。
従来の抗ヒスタミン薬や点鼻薬などの治療と違い、アレルギー症状を「抑える」だけでなく、アレルギーそのものを治療し将来の経過を変える可能性がある唯一の治療と世界保健機関(WHO)でも言われています。
実際、数年にわたる継続で症状が根本から軽くなり、治療終了後も効果が長く続くことが期待できます。その結果、お薬にずっと頼らなくても生活できるようになる可能性があります。
なぜ小さいうちから始めるの?早期開始のメリット
お子さんのアレルギー性鼻炎は、できるだけ早めに治療を始めるのがおすすめです。その理由は、早期に舌下免疫療法を行うことで将来にわたって様々なメリットが期待できるからです。具体的には次のようなポイントがあります。
長期にわたるアレルギーの負担を減らせる
小児のアレルギー性鼻炎は自然に治ることが少なく、治療せず放っておくと思春期・成人期までずっと症状が続くことが多いです。舌下免疫療法を年単位で適切に続ければ、症状の改善効果が長く持続し、その後の鼻炎症状が格段に軽くなることが期待できます。
将来、「毎年ずっと鼻炎に悩まされる」という状態から抜け出し、長い目で見てお子さんの生活を楽にしてあげられる可能性があります。
鼻の中が手遅れになる前に対策できる
アレルギー性鼻炎を長く放置すると、ダニなどの刺激で鼻粘膜が厚く硬く変化し、過敏な状態が慢性化することがあります。こうした変化は不可逆的(元に戻りにくい)とされ、症状が治りにくくなる原因になります。
早いうちから原因に対する治療を行えば、鼻粘膜の慢性的なダメージの蓄積を防ぎ、アレルギー性鼻炎の進行を食い止めることが期待できます。実際、「舌下免疫療法は病気の進行を抑制し得る」という報告もあり、早期介入で鼻炎の重症化を予防できる可能性があります。
長く続くお薬漬けから解放される
抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻など従来の治療は、症状が出るたびに対症療法のお薬を長期間飲み続ける必要がありました。しかし舌下免疫療法によって体質そのものが改善すると、症状が軽減し、必要なお薬の量も減らすことができると報告されています。
実際に治療後は鼻炎の症状が出にくくなり、日常的に薬を飲まなくても平気になるケースもあります。お子さん自身も「毎日薬を飲む」負担が減り、保護者の方にとっても通院や薬代の負担軽減につながります。
将来の大事なイベントも安心
アレルギー症状がひどいと、勉強やスポーツ、旅行など色々な場面に支障が出ます。例えば受験シーズンに花粉症やダニアレルギーの鼻炎があると、鼻水やくしゃみで集中力が低下して本来の力が発揮できない受験生も少なくありません。
さらに抗アレルギー薬の副作用である眠気が成績に影響してしまうことさえあります。舌下免疫療法でアレルギー症状を抑えておけば、試験や部活、大事な発表のときも万全のコンディションで臨めるでしょう。
また鼻づまりが改善すれば夜ぐっすり眠れるようになり、日中の集中力もアップすると考えられています。小さい頃にしっかり治療しておくことで、将来のお子さんの生活の質(QOL)が向上し、「ダニアレルギーに振り回されない人生」を送る助けになるのです。
喘息など他のアレルギーを予防できる可能性
ダニアレルギー性鼻炎を持つお子さんは、この先気管支喘息を発症したり、他の花粉症に新たに感作されるリスクがあります。
実際、「小児喘息の約1/3は、それ以前にアレルギー性鼻炎を経験していた」とするデータもあり、鼻炎のうちに治療して喘息への進展を防ぐことが大切です。アレルゲン免疫療法を行うと、その後の新しいアレルギーの発症を抑える効果が報告されており、スギ花粉症のお子さんでは将来的な喘息の発症リスクを減らせることも示唆されています。
ダニアレルギーでも同様に、早期から治療することで将来の喘息発症や他のアレルギー併発を予防できる可能性があります。お子さんのアレルギー体質がこれ以上広がらないよう、早めに手を打っておくことが重要です。
Q&A
Q: 子どもでも舌下免疫療法は受けられるの?
A: はい、お子さんでも5歳以上であれば治療可能です。日本では2018年からダニ舌下免疫療法の年齢制限が撤廃され、小児でも保険適用で受けられるようになりました。舌の下に1~2分お薬を保持する必要があるため個人差はありますが、6歳くらいになればほとんどのお子さんが上手に服用できます。もちろん小学生以上なら問題なくできますし、中には5歳でもお母さんと一緒に頑張って続けているお子さんもいます。
Q: どれくらいの期間、治療を続ける必要がありますか?
A: 基本は3年間程度を目安に毎日続けます(場合によっては3~5年)。症状の改善は1年目から少しずつ実感できますが、しっかり効果を定着させるためには長めの継続が大切です。長期間かけて続けることで、その後やめた後も効果が維持できることが期待できます。「そんなに長く続けられるかな…」と不安に思うかもしれませんが、1日1回おうちで舌の下にお薬を入れるだけなので意外と習慣になれば負担は少ないですよ。カレンダーにシールを貼るなど工夫しながら、無理なく続けていきましょう。
Q: 副作用や安全面が心配です。子どもにやって危なくない?
A: 重篤な副作用はまれで、安全性の高い治療です。舌下免疫療法は従来の注射による免疫療法より全身的な強いアレルギー反応(アナフィラキシー)が起こる頻度が低く、現在までのところ重篤な事故の報告もありません。開始時には医師の監督下で行い、万一の時もすぐ対処しますのでご安心ください。むしろ飲み薬を長年飲み続ける方が眠気や発達への影響が心配という声もあります。舌下免疫療法の主な副反応は口の中の軽いかゆみなどで、ほとんどは数日~1週間ほどで慣れて感じなくなります。お子さんによっては舌の下に入れる時にくすぐったがるかもしれませんが、大人が見守っていれば問題なく続けられます。
Q: 本当に治るんでしょうか?効果がなかったらどうしよう…
A: 舌下免疫療法は効果が証明された治療ですのでご安心ください。ダニやスギ花粉の舌下錠は、日本での臨床試験や治療の実績から有効性・安全性が確認され、保険適用になったお薬です。治療を始めて1年ほど経つと「去年より鼻の症状が楽になった」と感じる方が多く、3年続ける頃には「ほとんど気にならないレベル」「病院にかからなくても大丈夫になった」といった声も聞かれます。もちろん個人差はありますが、統計的にも症状の大幅な軽減や薬の使用量減少が期待できることが報告されています。何より舌下免疫療法はアレルギー疾患の根本に働きかける唯一の治療です。症状をごまかすのではなく「治す」方向に持っていける可能性がありますので、前向きに取り組んでみてくださいね。
『池袋ながとも耳鼻咽喉科』の公式ブログです。病気の情報、クリニックの情報発信をしていきます。院長の長友孝文は日本耳鼻咽喉科学会専門医。北池袋駅より徒歩2分、板橋駅より徒歩7分の北池テラス4Fにある耳鼻咽喉科クリニックです。