慢性上咽頭炎とは?症状や診断方法・治し方などを解説
上咽頭炎とは
上咽頭はどこにあるか?
上咽頭炎を理解するに先立ち、まずは上咽頭がどこにあり、何をしている場所なのかを確認しなければなりません。上図のように、上咽頭とは、鼻腔の奥に位置する咽頭の一部で、「鼻の奥の部分」といってよいです。一般的には肉眼的に確認することはできません、耳鼻咽喉科で鼻の穴をちょっと見られただけ(鼻を広げる器具です)で確認することはできません。内視鏡(ファイバースコープ)を用いて確認する必要があります。
図:耳鼻咽喉科ファイバースコープによる上咽頭所見(通常光、NBI)
上咽頭には、粘膜に覆われた咽頭扁桃という組織が存在します(幼少期にはアデノイドとして有名)。アデノイドは、呼吸器や口腔内の細菌やウイルスなどの侵入を防ぐ免疫器官の役割を果たしていますが、10歳を過ぎると急速に縮小して、思春期頃には消失する方が大多数です。口の中にある扁桃腺の大きさは個人差があり、「昔から扁桃腺が大きいと言われる」という方がいらっしゃいますが、上咽頭にあるアデノイドに関しても扁桃腺ほどではないですが、大人になっても肥大したままの方がいらっしゃいます。論文的な根拠はありませんが、慢性上咽頭炎が難治化している方は、アデノイド肥大がある方が多いように思われます。(もしくは反復的な炎症により幼少期のアデノイドが遺残してしまったのかもしれません)
図:小児のアデノイド所見
上咽頭の役割は?
上咽頭は、外部から侵入するウイルスや細菌から体を守る免疫機能を持っています。吸った空気の最初の関所が上咽頭であり、この免疫応答の関係から「生理的炎症部位」とも言われ、健康な人でも常に軽い炎症を認めています。また、上咽頭は鼻腔と咽頭をつなぐ重要な通路であり、空気の浄化や加湿、温度調節などの役割も担っています。
上咽頭炎に炎症が起こりやすい理由
上咽頭は、空気の通り道となる場所であり、左右の鼻孔から吸い込んだ空気が合流し、気管に向かって下方に空気の流れが変わる中咽頭へと続く通路となっています。二つの鼻の穴から左右に分かれて吸い込まれた空気は上咽頭で合流します。上咽頭で流速が急に落ちるので気流が停滞しやすく、ほこりや細菌が付着しやすい構造になっています。また、食物が通る中咽頭や下咽頭と異なり、空気しか通らない構造になっているため表面の粘膜が弱く、ウイルスや細菌、乾燥、胃酸などの刺激によって炎症を起こしやすいのです。
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細菌やウイルス感染
上咽頭炎の大部分は、細菌やウイルスなどの感染によって引き起こされます。上咽頭には外部から侵入するウイルスや細菌から体を守る免疫機能があり、だからこそ感染が頻発する場所でもあります。風邪やインフルエンザなどの感染症は、上咽頭に炎症を引き起こすことがあります。インフルエンザや新型コロナウイルスの感染が疑われた場合、病院で検査する際に鼻の奥に綿棒を入れられますよね。あれはまさに上咽頭に付着しているウイルスを採取しているのです。
アレルギー
アレルギー反応によって、上咽頭炎が発症することがあります。アレルギー性上咽頭炎は、季節性の花粉症やアレルギー性鼻炎などと同様に、特定の季節や環境下で症状が現れることが多く、抗アレルギー薬の使用が有効な場合があります。
喫煙
喫煙は、上咽頭炎の主要な原因となることがあります。タバコの煙は、上咽頭の粘膜を刺激し、炎症を引き起こします。また、タバコに含まれる化学物質は、免疫力を低下させることがあります。そのため、喫煙者は、上咽頭炎になりやすくなると考えられています。
乾燥
乾燥も、上咽頭炎の原因となることがあります。特に冬場の乾燥した空気や、加湿器の不適切な使用によって、上咽頭の粘膜が乾燥し、炎症を引き起こすことがあります。
胃酸の逆流
上咽頭炎と胃酸?と思われるかもしれませんが、これが意外と重要です。耳鼻咽喉科には「咽喉頭酸逆流症」という疾患概念があり、これは無自覚のうちに胃酸が喉まで逆流し(特に臥位睡眠時)、のどに炎症を起こします。食道や咽頭粘膜には胃粘膜と違い胃酸に対しての防御機構といえるものが十分でないため,たとえ逆流の頻度や量が少なくても粘膜が受ける障害は大きいのです。ストレス、肥満、生活習慣の乱れ、加齢などによって気付かぬうちに胃酸の分泌が増えたり逆流しやすくなっています。
急性上咽頭炎と慢性上咽頭炎
急性上咽頭炎
急性上咽頭炎は、ウイルスや細菌に感染することで引き起こされる病気であり、はなの奥に痛みや違和感、後鼻漏、声のかすれなどの症状が現れます。「鼻とのどの間あたりが痛い」、「のどちんこの裏が痛い」と表現される方も多いです。
実はとても多い疾患で、扁桃炎よりもよほど多く目にします。鼻風邪っぽいとなった方の少ない割合で上咽頭炎が起こっていますし、副鼻腔炎の方でも膿性の後鼻漏が上咽頭に付着することで炎症を起こします。
急性上咽頭炎は広義の鼻の風邪と考えてよいと思います。
通常は症状止めの薬などの服用で数日〜1週間程度で自然に改善します。細菌感染の合併は膿性の後鼻漏を生み出し、その場合は抗生物質の投与が行われます。
慢性上咽頭炎
急性上咽頭炎は、免疫機能が働き、ウイルスを攻撃して死滅させることで改善する場合がほとんどですが、ウイルスがなくなった後も上咽頭に炎症やうっ血が残ることがあります。この状態を「慢性上咽頭炎」といいます。
慢性上咽頭炎は、のどの痛み、喉の違和感、声のかすれなどの症状を引き起こす長期にわたる病気です。喫煙、大気汚染、花粉症、喉の乾燥、喉を酷使しすぎることなどが主な原因とされています。
新型コロナ後遺症による様々な症状の原因にも慢性上咽頭炎が大きく関与していると考えられています。
症状
・喉がイガイガする ・喉が痛い ・のどの渇き ・のどの痛みが続く ・声がかすれる ・のどに痰がたまる
これらの症状が続く場合は、慢性上咽頭炎が疑われます。繰り返し発症する場合が多く、長期間にわたって症状が続くことがあります。
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上咽頭炎の診断|セルフチェックはできるのか
上咽頭の診断はある程度慣れがないと容易なものではありません。そのため、セルフチェックは難しいです。上咽頭は口を開けても見えない部分にあるため、確定させるためには耳鼻咽喉科で内視鏡検査(ファイバースコープ)は必須と考えております。もちろん経過や症状からある程度推察は可能です。
急性上咽頭炎では上咽頭の赤みがあり、時には膿汁が付着していますし、何より経過が急性というのもあり診断しやすいのですが、慢性上咽頭炎では内視鏡で一見正常に見える場合があり、耳鼻咽喉科でも「異常ありません」と言われることが多いようです。NBIシステムはより詳細に上咽頭の状況を評価することができるので、診断に役立ちますが、それでも見た目だけで上咽頭炎を言い切るのは難しいといえます。
慢性上咽頭炎では、内視鏡で一見正常に見えても、上咽頭に綿棒で塩化亜鉛などの塗布(Bスポット療法)を行ったときに出血を起こし、痛みを感じます。
*健康な人でも上咽頭に軽い炎症を認めるため、Bスポット療法を行うと多少しみる感じがすることはあります。何らかの上咽頭炎の症状が気になり、Bスポット療法で出血や痛みを感じる場合は、治療が必要になる可能性があります。
慢性上咽頭炎が全身の不調と関係する3つの理由
慢性上咽頭炎は風邪と見分けがつきにくい症状が現われるだけでなく、頭痛や首・肩こり、めまい、全身の倦怠感、うつ、過敏性腸症候群、腎炎や関節炎、皮膚炎など、さまざまな疾患や不調に関係している可能性があると考えられています。
全身の不調と関係する理由として次の3つが挙げられます。
上咽頭炎の炎症の放散によって関連痛が起こる
実際に炎症が起きている上咽頭とは異なる部位に痛みが生じることを関連痛といいます。慢性上咽頭炎では、上咽頭に比較的近い部位である頭や首、肩に痛みが生じ、頭痛や首・肩こりの原因となる場合があります。
自律神経が乱れやすくなり、さまざまな不調の要因になる
上咽頭には神経線維が多く存在し、脳の迷走神経の末端が分布しています。上咽頭に慢性的な炎症が起こると、迷走神経が刺激され、自律神経系に影響を及ぼすと考えられています。自律神経のバランスが崩れることで、めまいや全身の倦怠感、過敏性腸症候群、うつなど、さまざまな症状を招く可能性があります。
上咽頭炎が「病巣」となって二次疾患を引き起こす
風邪のウイルス感染などによってリンパ球などの免疫をつかさどる細胞が活性化し、炎症物質が産生されると、その炎症物質が血流に乗って全身を駆け巡り、腎臓や関節、皮膚などに炎症を引き起こす場合があります。この場合、上咽頭炎を「病巣炎症(びょうそうえんしょう)」、それによって生じた腎炎、関節炎、皮膚炎などを「二次疾患」と呼びます
慢性上咽頭炎の治療方法
慢性上咽頭炎の治療には、原因や症状に応じた対処療法が行われます。一般的な治療方法としては以下のものがあります。
内服薬
抗生物質
細菌感染が原因である場合には、抗生物質の投与が行われます。ただし、慢性上咽頭炎の多くは持続する細菌感染ではないことが多いため抗生物質が有効な方は少ないです。
抗アレルギー薬
アレルギー性の上咽頭炎に対しては、抗アレルギー薬が用いられます。花粉症などのアレルギーに対する治療と同じような方法です。
胃酸分泌抑制薬
なぜ胃酸?と疑問があると思いますが、胃酸が食道に逆流してしまうと、そこからは液体を止める弁はないため、食道を通り過ぎてのどまで胃酸が逆流してしまうことがあります。のどを通り越して上咽頭を介して中耳まで到達するとされています。胃に比べて咽頭の粘膜は酸に対する防御機能を備えていないために、容易に炎症を起こします。このような方には、上咽頭炎の治療だけでなく、胃酸分泌抑制薬を使用します。
漢方薬
漢方薬は、慢性上咽頭炎の治療に役立つ、自然治癒力を高める効果があります。漢方薬は、体内のバランスを整え、免疫力を高めることで、炎症を鎮め、慢性上咽頭炎の症状を改善することが期待されています。上咽頭炎の治療として、EATと併用することも少なくありません。
EAT(Bスポット療法)
EAT(Bスポット療法)は、炎症を起こしている上咽頭に直接薬剤を塗布・擦過する治療法です。何十年も前から行われてきた歴史のある治療法ですが、治療による痛みや頻回な通院が必要だったり、何より保険点数が安すぎるため一部の耳鼻咽喉科でしか行われていない治療方法です。
慢性上咽頭炎は内服薬による治療効果がそれほど期待できないため、このように直接薬剤を塗布したり物理的な刺激を加える方法がより有効です。
塩化亜鉛は、鼻の中、または口の中から綿棒で上咽頭に塗布・擦過します。病的な上咽頭炎のある場合は、治療時に綿棒に血液が付着し、ある程度痛みを生じます。しかし、治療後数時間は痛いものの、その後で症状(上咽頭の痛み、後鼻漏、頭痛など)が改善するケースが多くみられます。
急性上咽頭炎では、一度の治療だけで症状が軽快する場合もあります。慢性的な上咽頭炎に対しては、週に1~2回のペースで10~15回程度を目安に治療を行っています。
上咽頭炎の予防・日常生活の注意点
慢性上咽頭炎を予防するためには、以下の方法が効果的です。
喉の保湿
喉の乾燥は、慢性上咽頭炎の原因となることがあります。喉を保湿するために、水分をこまめに摂ることが大切です。
禁煙
喫煙は、慢性上咽頭炎の原因となることがあります。タバコを吸わないようにすることで、慢性上咽頭炎を予防することができます。
鼻うがい
鼻うがいは、口や鼻から喉に向かう細菌を取り除くのに効果的です。毎日、鼻うがいを行うことで、慢性上咽頭炎を予防することができます。
首周りを冷やさないようにする
首周りを冷やすことは、のどに負担をかけることがあります。寒い時期には、首にマフラーやネックウォーマーを巻いて、暖かく過ごすようにしましょう。
ストレスの回避
ストレスは、免疫力を低下させる原因となることがあります。ストレスを感じたときには、リラックスすることを心がけましょう。
適度な運動
適度な運動は、免疫力を高める効果があります。毎日のウォーキングやストレッチなど、簡単な運動を取り入れてみましょう。
食事療法
バランスの良い食事を心がけることで、免疫力を高めることができます。ビタミンCや亜鉛など、免疫力に効果的な栄養素を積極的に摂るようにしましょう。
以上の方法を実践することで、慢性上咽頭炎を予防することができます。