耳垢・耳掃除について
耳の構造
耳の構造を断面図で見るとこのようになっています。外耳道(耳の穴)は大人の方で約3cmあり、子供はもう少し短いです。この絵のように外耳道はまっすぐではなく、曲がっています。個人差はありますが完全にまっすぐな方はほぼいません。曲がり具合や耳の穴の大きさに個人差があり、まずはこれが耳掃除を難しくしている要因となります。
外耳道の表面は皮膚で覆われていて、手前1/3が軟骨部外耳道、奥が骨部外耳道と呼ばれます。骨部外耳道は皮膚が薄く傷つきやすいので耳掃除を奥までやると容易に感染が起こります(=外耳炎)
ですので、「骨部外耳道には触らない」(=奥は掃除しない)が原則になります。
外耳の自浄作用
外耳道には自然に垢を外に排泄される自浄作用があります。外耳道には奥から入り口へと表皮が移動する働きがあり、はがれた表皮や皮脂腺などからの分泌液が混じり合った耳垢は、自然に外耳道の外へ出ていきます。したがって、健康な外耳道は深部の清掃を必要としません。不適切な耳掃除はむしろ、外へ出ようとしている耳垢を奥へ押し込んだり、外耳道を傷をつけてしまうことが多いのです。
耳垢の性状について
耳垢には乾燥しているものと粘性(アメミミ、ネコミミなどと呼ばれています)のものがあります。この違いは遺伝的に決まっています。
日本人は約70%が乾燥型、残りの約30%が粘性と言われております。
乾燥しているタイプの方は、自然に出てくることが多いので無理に耳掃除はしなくて大丈夫です。
ただし、以下の方は耳垢が溜まりやすいので、少し注意が必要です。
- 粘性耳垢の方
- 外耳道が狭い方
- お子様(代謝が早い、外耳道が狭い)
- 高齢者(自浄作用が低下している)
- アトピー性皮膚炎の方
- 補聴器を日常的に使用されている方
- 耳栓使用者など
特に最近は密閉性が高いイヤホンを使用している方も多く、在宅ワークやテレワークが増えた影響でイヤホンを使用している時間も増えました。同時に外耳炎や耳垢栓塞の方も増えています。
通常の外耳道と鼓膜
耳垢栓塞(鼓膜確認不能)
耳垢栓塞(鼓膜の下半分は確認可能)
耳掃除のやり方
- 耳の入口から見える範囲だけ(耳の穴の入口から1cm位まで)を綿棒で優しく拭き取るようにして下さい。
- 入浴後は耳あかが湿ってやわらかくなっており、そうじがしやすいです。
- 耳垢掃除をするときは「耳かき」がおすすめです、「綿棒」はオススメできません。
- なぜ綿棒がダメなのかというと、綿棒や柔らかくて耳を傷つけないようなイメージがありますが、実際は先端は固く、グリグリ奥の方まで押し込んでしまうと耳を傷つけてしまいます。また、綿棒は耳かきよりも柔らかいので気持ちのいい刺激が続くため、思ったよりも長い時間掃除してしまうことにつながります。長い時間掃除をしているということはそれだけ耳の皮膚に不要な障害が加わってしまうことになります。
- 取れにくい耳垢があったり、そうじをしていて痛みが生じるようであれば、無理に取ろうとしないで、耳鼻科を受診しましよう。
『動画』耳のそうじは本当に必要なの?
日本耳鼻咽喉科学会静岡県地方部会が出している耳のそうじに関する動画で、とても興味深い内容になっています。
耳鼻科医の中では有名な動画で、鼓膜の中心部に色素をつけ、数ヶ月でどうなっていくか観察したところ、自然と外側へ排泄されていることがよく分かります。つまり奥まで頑張って掃除する必要はないのです。
耳掃除の頻度はどれくらいが適切か?
2週間〜1ヶ月に1回で十分と考えます。
ちなみに、米国耳鼻咽喉科頭頸部外科学会や海外の論文や発表では、健康な状態であればほとんどの方は耳掃除は不要とされています。もし耳垢がつまってしまい、耳掃除をする場合は専門医を受診することが推奨されています。
※補聴器を使用している方は、6~12カ月ごとに専門医を受診し、予防的な意味で耳掃除をしてもらうことを推奨していました。
過剰な耳掃除はしない。過剰な耳掃除は外耳道の炎症や感染の原因となり、耳垢塞栓率が高まる綿棒、ヘアピン、つまようじなどは耳を傷つけることがある。これにより外耳道裂傷、鼓膜の穿孔、耳小骨変位が生じて聴力低下、目まい、耳鳴りなどを招く恐れがある
上述したように、日本人の多くは乾燥耳垢です。逆に欧米人のほとんどは粘性耳垢なのです。どちらが耳垢が溜まりやすいかというと粘性耳垢です。粘性耳垢の欧米人が耳垢不要と言っているのですから、日本人はなおのこと不要なはずなのです。
とはいえ、全くしないで気づいたら耳栓のような耳垢ができてしまっている方もおり、一概に自然に出るのだからやらなくてよい、ということは言えません。耳の穴の大きさや耳垢の性質は個人差がありますし、耳垢が気になってしまう方もいらっしゃると思いますので、耳掃除をするときは2週間〜1ヶ月に1回程度、数10秒から1分程度で十分と考えます。
耳鼻科に行く目安は?
基本的には気になったら来てください。溜まりやすい方の場合は3~4か月に1回くらいが目安だと思います。
耳掃除だけで行くのは申し訳ないなどと考えずに、ご遠慮なくお越しください。見えないところですので見せていただいた方が良いと思います。
また、注意点としては、「聞こえが悪いけど多分耳垢だから放っておいた」場合です。本当に耳垢のせいでしたら取れば解決しますが、実は突発性難聴だったなどの場合は、病院に来るのが遅くなると治療が遅れてしまい、治らなくなってしまう可能性があるからです。
比較的多いパターンとして、『耳閉感』があるので耳垢だと思ったが、実際には耳垢はなく聴力検査で低音障害型難聴だった、というケースです。低音障害型難聴は、会話レベルの周波数は悪化しないのであまり症状の自覚はないのですが、低音の聞こえが悪くなると耳閉感が主な症状になることが少なくありません。低音障害型難聴は多くの場合は数日から数週間以内で治りますが、中には長引くタイプ、繰り返すタイプもあります。この疾患から、同じ内リンパ水腫が原因で起こるメニエール病に移行することもあります。治療には薬の服用が必要であり、治療開始が遅くなると治る確率が低下してしまうので早めの受診が望ましいのです。
耳掃除Q&A
Q:耳掃除だけで耳鼻科を受診してよいのですか?
A:もちろん大丈夫です。ただし、商業目的で耳掃除をされていらっしゃる店舗のように、時間をかけてマッサージなどをしながら徹底的にきれいにするような耳掃除を施行している耳鼻科は少ないでしょう。あくまで医学的に必要な範囲での清掃を、保険診療としてさせていただいております。
Q:耳掃除で受診した場合の費用はどのくらいですか?
A:初診の場合は、3割負担の方で1400円程度です。(処方なしの場合)。保険診療ですので、18歳未満で医療券をお持ちの方は無料となります。
Q:耳掃除の頻度はどのくらいが適切ですか?
A:溜まりやすい方は2週間~1か月程度。溜まりにくい方は数か月に一度でも問題ありません。
Q:耳掃除の際に注意すべきポイントはありますか?
A:やりすぎないことです。綿棒は良く使用される道具ですが、一見柔らかくて耳に優しそうですが、気持ちがいいため長時間使用してしまう傾向があります。いくら柔らかくても皮膚には刺激になりますので、外耳炎を起こすこともよくあります。耳掃除を行う場合は短時間で優しくさっと行いましょう。
Q:耳掃除をするときに痛みを感じることはありますか?
A:外耳道の皮膚に傷がついてしまっていると痛みを感じることがあります。鼓膜に触ればかなりの痛みを感じますが、通常の耳かきでそこまで奥を掃除することはありません。
Q:耳掃除中に出血することはありますか?
A:強く行えば当然出血します。出血した場合はやりすぎていると考えてください。
Q:耳掃除で感染症のリスクはありますか?
A:耳掃除で外耳道(耳の穴)の皮膚が傷ついてしまい、細菌感染・炎症を起こすことで発症する感染症が外耳炎です。外耳炎について
まとめ
- 健康な外耳道は自浄作用があり、垢は自然に外に排泄されます。外耳道の深部を掃除する必要はありません。不適切な耳掃除は耳垢を奥に押し込んだり、外耳道を傷つける可能性があります。
- 耳垢には乾燥したタイプと粘性のタイプがあり、日本人の約70%が乾燥型であり、約30%が粘性型です。乾燥型の耳垢は自然に排出されることが多いため、無理に掃除する必要はありません。
- 粘性耳垢の人、外耳道が狭い人、お子さん、高齢者、アトピー性皮膚炎の人、補聴器を使用している人、耳栓を使用している人などは耳垢が溜まりやすい傾向があります。
- 耳掃除は2週〜1ヶ月に1回程度。耳の入口から見える範囲の耳垢を優しく拭き取る程度で十分です。入浴後が耳垢を取りやすい時期です。綿棒ではなく、耳かきを使用することがおすすめです。
- 耳掃除のみで耳鼻咽喉科を受診することは何ら問題ありませんので、お気軽に受診してください。