耳鳴り
耳鳴りとは?症状と種類
耳鳴り(みみなり、医学用語では耳鳴〈じめい〉)とは、周囲に実際の音がないにもかかわらず「音が聞こえる」と感じてしまう現象です。例えば「キーン」という高い金属音や「ジー」「ザー」といった虫や機械音のような音、あるいは「ブーン」という低い唸り音など、表現は様々です ()。音の大きさや頻度も人によって異なり、ごく軽微で日常はあまり気にならない程度のものから、常に大音量で聞こえて睡眠や仕事に支障をきたすものまで幅があります。
耳鳴りは医学的には症状であり、それ自体が病名というより何かしらの原因によって引き起こされる現象です。大きく分けて、本人にしか聞こえない「自覚的耳鳴り」と、実際に体内で音が発生しており場合によっては他人にも確認できる「他覚的耳鳴り」の2種類があります。一般的に「耳鳴り」と言えば前者の自覚的耳鳴りを指し、患者さん自身にだけ聞こえる幻の音です。後者の他覚的耳鳴りは稀ですが、血流の音や筋肉のけいれんによる振動音などが原因で起こり、医師が聴診器で確認できるケースもあります 。
自覚的耳鳴りは非常に頻度が高く、年齢とともに増える傾向があります。報告によれば先進国では人口の10~15%程度が何らかの耳鳴りを感じており、日本ではおよそ1,200万人が耳鳴りに悩んでいると推計されています)。高齢になると耳鳴りを自覚する人が増えますが、若い人でも大きな音にさらされた後など一時的に経験することがあります。誰にでも起こりうるありふれた症状ですが、「常に耳鳴りが鳴りやまない」「生活に支障が出るほどつらい」という場合には、医学的なケアや対策が必要になります。
耳鳴りのメカニズム(なぜ起こるのか)
人間の聴覚は、耳が音の振動を電気信号に変換し脳がそれを「音」として認識することで成り立っています。このとき内耳の蝸牛(かぎゅう)にある有毛細胞が重要な役割を果たします。蝸牛の有毛細胞は音の周波数帯ごとに配置され、正常な聴力では音の刺激に応じて規則正しく反応します 。しかし加齢や大きな騒音曝露など何らかの要因で有毛細胞が損傷・脱落すると、特定の周波数の音を脳に伝える信号が弱まったり途絶えたりします 。この聴覚信号の欠落こそが、耳鳴り発生の大きな誘因になります。
多くの耳鳴り患者では、実際に聴力の低下(難聴)が認められます。ある調査では耳鳴りを訴える患者さんの90%以上に何らかの難聴が確認されたとの報告があります。難聴が起こると脳の聴覚中枢に届く電気信号が減少しますが、脳は不足した信号を補おうとして神経活動を過剰に高める(音を探そうとする)ことがあります。この結果、生じるのが耳鳴りです。「本当は音が鳴っていない静かな状態なのに、脳が勝手に音を作り出してしまう」とも言えます。
いわば耳鳴りは聞こえなくなった音を埋め合わせようとする脳の反応(過剰適応)なのです。
この仕組みは、手や足を失った人がないはずの手足の痛みを感じる「幻肢痛(ファントムペイン)」に例えられることもあります 。本来あるべき刺激がない状況で神経系が不適切に興奮し、「脳が作り出す音」を聞いてしまっている状態が耳鳴りだと考えられます 。一方、他覚的耳鳴りの場合は機序が異なり、耳周辺の血管や筋肉などから発生する実際の物理的な音ですので、原因が特定できればその音源を除去・治療することで治癒しうる点で異なります。しかし大多数を占める自覚的耳鳴りでは、未だ完全に音を消す明確な治療法は確立しておらず、発生メカニズムの解明とそれに基づく治療法の研究が世界中で続けられています 。
耳鳴りの原因
前述のとおり、耳鳴りは何らかの基礎疾患や要因によって引き起こされることがほとんどです。耳鳴りの原因を知ることは治療や対策の第一歩になります。主な原因として、以下のようなものが挙げられます 。
-
加齢による聴力低下(老人性難聴):年齢とともに内耳の有毛細胞が減少し、高音域から聞こえにくくなるため、高齢者の耳鳴りの最大要因です。誰にでも起こりうる現象であり、ゆっくり進行します。
-
騒音曝露(騒音性難聴・音響外傷):爆発音やコンサート、大音量の音楽プレーヤーなどで長期間・大音量の音に晒されると、内耳細胞が壊れて難聴と耳鳴りを生じます。若年者でもライブや工事現場などで耳鳴りを感じることがあります。
-
突発性難聴:ある日突然原因不明の内耳障害で聴力が低下する病気(突発性難聴)でも、高頻度で耳鳴りを伴います。突発性難聴の約5%では聴神経腫瘍(内耳の神経にできる良性腫瘍)が隠れているとも言われ、治療に反応しない片側の強い耳鳴りではMRI検査で腫瘍を調べることがあります。
-
耳の病気:メニエール病(内耳のリンパ液異常によるめまい発作の病気)や、中耳炎から内耳へ波及する内耳炎、耳硬化症(中耳の骨が固まる病気)など耳の疾患でも耳鳴りが起こります。めまいや難聴を伴う場合はこれら耳疾患の治療が優先されます。
-
耳垢栓塞・耳管狭窄:耳あかの詰まりや中耳と喉をつなぐ耳管の機能異常で耳の中の圧力が変化すると、一時的にこもったような耳鳴りが生じることがあります。原因を除去すれば改善します。
-
頭部・頸部の外傷:交通事故や転倒などで頭や首に外傷を負った後、内耳や聴神経がダメージを受けて片側の耳鳴りが残ることがあります。
-
薬剤(薬物性耳鳴り):一部の薬は副作用で耳鳴りを引き起こします。代表例はアスピリンなどのNSAIDs(鎮痛薬)、特定の抗生物質(アミノグリコシド系)、抗がん剤、利尿剤、抗マラリア薬、抗うつ薬などです。通常は用量依存性(高用量で出やすい)であり、薬の中止により消えるケースが多いです。処方薬の場合は主治医に相談しましょう。
-
その他の全身的要因:ストレスや睡眠不足は耳鳴りを悪化させる要因としてよく知られます。また貧血や甲状腺機能異常、糖尿病など代謝や循環系の慢性疾患が関連することもあります 。顎関節症(あごの関節の不調)で顎を動かすと耳鳴りが生じる例や、首・肩の筋緊張からくる例も報告されています。精神的な不安・うつが強いと症状がより気になり悪化しやすいこともわかっています。
このように耳鳴りの原因は多岐にわたりますが、最も多いのは内耳の有毛細胞障害による難聴です。特に高音域の難聴があるとき、その周波数に対応する耳鳴りが生じるケースが多く、高齢者の耳鳴りでは加齢性難聴が土台にあることがほとんどです。原因の中には治療可能なもの(中耳炎の治療や耳垢除去、薬剤中止など)もあるため、まずは耳鼻科で原因を調べてもらうことが大切です。
「もしかして大きな病気では?」と不安になる方も多いですが、耳鳴り自体は命に関わる症状ではなく、重大疾患が隠れているケースは稀です。むしろ原因が判明してしまえば安心して気にならなくなる方も多いため、専門医の診察を受ける意義は大きいでしょう。
耳鳴りの診断と検査
耳鳴りで受診すると、まず自覚的か他覚的かを判断されます。
脈拍と同期した「ドクンドクン」という拍動性の音が聞こえるなら血管性の耳鳴りを示唆し、必要に応じて頸部のエコー検査やMRI/MRA(血管のMRI検査)で詳しく調べます 。一方、自覚的耳鳴りの場合は外から音は聞こえませんので、患者さん自身から症状の詳しい問診を行います。片耳か両耳か、いつから持続しているか、音の高さや大きさ、きっかけとなる要因(大きな音を聞いた、薬を飲んだ、ストレス状況にあった等)がないか 、めまいや難聴・耳の痛みといった他の症状の有無など、様々な角度で問い診ます。
続いて聴力検査を行うのが一般的です。オージオメーターという装置で聞こえる最小音量を周波数ごとに測定し、難聴の有無と程度を調べます。耳鳴りがある人では、高音域(通常測定する8kHzより上の12kHz程度まで)に聴力低下が見つかることが多く、それと同じ周波数帯で耳鳴りが生じている例がよくあります。これは耳鳴りの原因として高音域の聴力低下が関与していることを裏付ける所見です。
また検査機器によっては、患者さんの耳鳴りの音と同じ高さ・大きさの音を作り出しマッチさせて記録する「耳鳴り検査」を行うこともあります。これにより耳鳴りの客観的な音の性質(周波数、音圧レベル)がわかり、治療前後で症状の変化を評価する指標にもなります。
多くの場合、耳鳴り患者さんに深刻な疾患は見つかりません。しかし診断を受け「原因が重大な病気ではなかった」と知るだけでも、患者さんにとっては大きな安心材料になります。事実、原因が判明し不安が和らぐと「以前ほど気にならなくなった」と耳鳴り自体が軽減するケースもあります。このように耳鳴りの診断では、単に原因を探すだけでなく、患者さんの不安を取り除き適切な情報提供をすることも治療の一環なのです。
耳鳴りの治療法
耳鳴りに対しては様々なアプローチの治療法が開発・実践されています。ただし残念ながら現時点で「これをすれば耳鳴りが完全に治る」という確立された根本治療はありません 。
特に自覚的耳鳴りは原因が複合的で、治療の効果にも個人差が大きいため、「耳鳴りそのものを消す」というより「耳鳴りと上手に付き合い苦痛を和らげる」ことを目標に置いた対処が中心となります。以下に代表的な治療法を紹介します(必要に応じて複数を組み合わせて行うこともあります)。
補聴器による治療
補聴器の装用は、難聴を伴う耳鳴り患者に広く勧められる治療法です 。耳鳴りの最大要因が難聴による脳の過剰反応であるなら、足りなくなった聴覚入力を補ってあげれば脳の興奮が治まり、耳鳴りも和らぐはずだ──という考えに基づきます 。実際、難聴がある患者さんに適切にフィッティングした補聴器を使用すると、約半数で耳鳴りの症状が軽減するとの報告があります。補聴器によって聞こえにくかった音が聞こえるようになると、脳は外界の有用な音に注意を向けるようになり、結果として耳鳴りへの注意が薄れる効果もあります 。
補聴器治療のポイントは、一日中なるべく長時間装用することです。脳の順応には時間がかかるため、断続的な使用ではなく生活音を常に脳に入れてやることで、聴覚中枢が元の健全な状態に再調整されていくと考えられます。装用開始直後から「つけている間は耳鳴りが楽になった」という人もいますが、十分な効果を得るには数ヶ月以上の継続が望ましいでしょう。なお、軽度の難聴で補聴器が不要なケースではこの方法は適用しにくいですが、高度難聴の方では人工内耳(内耳に電極を埋め込む手術的治療)によって聴力を回復させると耳鳴りが軽減することも報告されています(※人工内耳は両耳重度難聴の場合のみ適用)。
音響療法とTRT(耳鳴り再訓練療法)
補聴器による「聞こえの補充」も広義には音を使った治療ですが、音響療法とはさらに積極的に「音」で耳鳴りを和らげるアプローチです。
日常生活でも滝の音やエアコンの音など環境音があると耳鳴りが気になりにくいことはよく知られており、それを治療に応用したものです 。具体的には、特殊なノイズ発生装置や音源を用いて外部から持続音を聞かせることで、耳鳴りの響きを緩和・マスキングしたり、脳を慣れさせていきます。音響療法にはいくつかの手法がありますが、代表的なものにTRT(Tinnitus Retraining Therapy:耳鳴り再訓練療法)とマスキング療法があります。
-
TRT:常に低めのボリュームでノイズ音を流し続け、患者の脳に「耳鳴り音は危険なものではない」という学習をさせていく方法です 。耳鳴りそのものを完全にかき消すほど大きな音は使わず(耳鳴り音が少し聞こえる程度の小音量に設定)、徐々に脳が耳鳴りを無視できるよう順応させることを目指します。この際、音に対する感じ方(恐怖や不安)を和らげるためのカウンセリングも並行して行う点が特徴です 。いわば「音と心理」の両面からアプローチする包括的なリハビリといえます。
-
マスキング療法:患者が感じる耳鳴り音を外部の音で覆い隠してしまう(マスキングする)方法です。TRTと異なり、耳鳴りが聞こえなくなる程度まで少し強めのホワイトノイズ等を流します。一時的にでも耳鳴りから解放されることでストレスを減らし、睡眠時などに活用されます。簡便な方法として、家庭ではヒーリング音楽や波の音・川のせせらぎなど環境音のCDを流したり、就寝時にイヤホンで小さな音楽をかけたりするだけでもマスキング効果があります 。
これら音響療法により、短期的には多くの患者で耳鳴りの軽減効果が報告されています。実際、寝る前に環境音を流す簡易マスキングは耳鼻科でもよく指導される対処法です。一方で、長期的な治療効果についてはエビデンス(科学的証拠)の蓄積が充分ではなく 、すべての患者に有効と断言できる段階ではありません。また、人によってはホワイトノイズのような機械的な雑音そのものを不快に感じてしまうケースもあります。
そのため最近では、鳥のさえずりや波音といった自然音や心地よい音楽を使う試みも行われています。特に「周波数除去音楽療法」といって、患者さんの耳鳴りと同じ周波数帯の音だけをあえて取り除いた音楽を聴く方法では、取り除いた周波数域の聴覚野ニューロンの興奮が低下し耳鳴りが和らぐ可能性が示されています。実際にオーダーメイド音楽を用いて症状改善が報告された例もあり、音楽療法は「雑音よりも抵抗感が少ない」「長時間続けやすい」という利点から注目されています。もっとも、難聴の程度が強いと音楽を聴き取ること自体が難しいため効果が限定的であったり、研究報告数も十分とは言えないため、今後さらなる大規模臨床試験が必要とされています 。
薬物療法
耳鳴りに対して「薬で治す」ことへの期待もあるところですが、現状では明確に効果が証明された薬剤は存在していません。耳鼻科で処方されるお薬としては、血行改善目的のビタミン剤や循環改善薬、精神安定剤、漢方薬など様々なものが試みられます。しかしそれらはいずれも対症療法的に「気持ちを落ち着ける」「睡眠の質を上げる」等の効果を狙ったものが中心で、耳鳴りそのものを消す特効薬ではありません。
よく使われる代表的な薬剤にイチョウ葉エキス(銀杏エキス)がありますが、これも「内耳の血流を良くする」「抗酸化作用で内耳細胞を保護する」といった作用が期待されるものの、肝心の耳鳴り症状に対する有効性は臨床試験で否定的な結果が出ています。また、睡眠改善を目的に用いられることのあるメラトニンというホルモン製剤は、不眠の解消を通じて間接的に耳鳴りを和らげる可能性が報告されています 。ただし症例数が限られるうえ耳鳴り自体に直接効くものではないため、確固たるエビデンスには至っていません 。他にも各種ビタミン剤、亜鉛などのサプリメント、抑肝散などの漢方薬が用いられることもありますが、どれも「劇的に効く」というよりはプラセボ(気休め)的な位置づけを出ないのが現状です。
一方、耳鳴りに付随する症状への薬物療法は有用です。ストレスや不眠があると耳鳴りは悪化しやすくなります。そのため抗不安薬(いわゆる安定剤)や抗うつ薬を用いて精神面のつらさを和らげたり、夜だけ軽い睡眠導入剤や鎮静作用のある漢方を使ってしっかり眠れるようにしたりすると、「耳鳴りが気になりにくくなった」という方が多くいます。これらは耳鳴りの感じ方を鈍くする目的と言えます。実際、耳鳴り治療のゴールは「音を完全になくすこと」ではなく「音はあっても気にせず生活できること」にあります。脳が耳鳴りを危険なもの・不快なものと捉えなくなれば、同じ音が鳴っていても苦痛は大きく軽減します。その境地に至るために薬物療法が補助的役割を果たす場合があるという位置づけです。
なお、日本ではかつて内耳の治療薬として使われる「アデノシン三リン酸(ATP)製剤」やステロイド剤などが慣習的に耳鳴りへ処方されることもありました。しかしATP製剤(たとえばアデホスコーワなど)は適応外使用であるうえ、中枢神経を刺激してかえって耳鳴りを悪化させる恐れも指摘されています。不用意な薬の漫然投与は避け、本当に必要な場合にのみ専門医の判断で用いるようにしましょう。
神経刺激療法(ニューロモデュレーション)
耳鳴りのメカニズムに脳の神経活動の異常興奮が関与していることから、近年は脳や神経に直接刺激を与えて耳鳴りを抑える先進的な治療法の研究も進んでいます (耳鳴りの新しい治療法)。代表的なものが経頭蓋磁気刺激(TMS)と呼ばれる方法です。TMSはコイルから発生させた磁場で大脳皮質に微弱な電流を誘導し、神経活動を調節する非侵襲的(手術不要)の技術です (耳鳴に対する経頭蓋磁気刺激法)。うつ病治療などにも応用され、耳鳴りに対しては主に聴覚野の興奮を抑える目的で反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)が試みられています (KAKEN —耳鳴モデルにおける病態解明と治療の ...)。コクランレビュー(国際的な医学レビュー)によると、rTMSは短期的には耳鳴りの大きさを低減する効果が示唆され、安全性も確認されています (耳鳴に対する経頭蓋磁気刺激法 )。ただし研究間で結果にばらつきがあり、長期的な有効性についてはエビデンス不十分というのが現状です。今後さらなる臨床研究によって、どのような刺激条件やターゲット部位が有効なのか解明が期待されています。
心理療法・カウンセリング
耳鳴りそのものを直接治療する方法ではありませんが、心理的アプローチも非常に重要です。耳鳴りによるストレスや不安を軽減し、脳が耳鳴りにとらわれにくくするために、カウンセリングや認知行動療法(CBT)、マインドフルネス瞑想法などが用いられます 。専門の臨床心理士や医師の指導の下で行われるこれらの療法は、耳鳴りを「受け流す」スキルを身につける手助けとなります。先述のTRT療法におけるカウンセリングもその一種で、耳鳴りに対する恐怖心や「治らないのでは」という絶望感を和らげることで症状への脳の過敏な反応を鎮めていきます 。
実際、耳鳴り患者さんの中には音そのものより「この先一生この音と付き合うのか」という不安や抑うつに苦しむ方もいます。そうした心理面のケアをすることで二次的な苦痛を取り除き、結果的に耳鳴りが気にならなくなることが期待できます。最近の研究でも、認知行動療法が耳鳴りの苦痛度を下げQOL(生活の質)を向上させる有効な介入であると報告されています。特に不眠や不安が強い人には積極的に取り入れたい方法です。
生活習慣による対処法・セルフケア
治療と並行して、日常生活での工夫も耳鳴り症状の軽減に役立ちます。以下にセルフケアのポイントを挙げます。
-
適度に音刺激を与える: 静寂な環境では耳鳴りが目立つため、静かすぎる場所を避けましょう。寝室ではタイマー付きの音楽や環境音を流したり、日中も適度にBGMをかけたりすると良いです。ただしイヤホンで大音量の音楽を聴くのは難聴悪化につながるので避けます。
-
耳を保護する: 大きな音が出る場所(コンサート、工事現場、花火大会など)では耳栓やイヤーマフで耳を守り、内耳へのダメージを防ぎましょう。既に耳鳴りがある人はこれ以上の聴力低下を進行させないことが大切です。ただし日常生活まで常に耳栓をする必要はありません。適度な音はかえって脳に良い刺激となるためです。
-
ストレスを溜めない: 心理的ストレスや疲労は耳鳴りを悪化させる大きな要因です。十分な休息と睡眠をとり、リラクゼーション法を取り入れてみましょう。深呼吸、ストレッチ、ヨガ、入浴など自律神経を整える習慣が効果的です。マインドフルネス瞑想も雑念(耳鳴りへの執着)を手放す訓練として有用です。
-
生活リズムを整える: 規則正しい睡眠・覚醒リズムやバランスの良い食事、適度な運動習慣は全身の健康を底上げし、耳鳴りの感じ方にも良い影響を与えます。特に運動は血行を促進し内耳の代謝を助けるため、無理のない範囲で継続するとよいでしょう。
-
刺激物を控える: カフェインやアルコール、ニコチンなどの刺激物は人によって耳鳴りを悪化させることがあります。コーヒーやお酒を摂りすぎている場合は一度減らして様子をみるのも手です。過度な塩分もメニエール病などでは症状を悪化させるため注意しましょう。
-
周囲に相談する: 家族や友人に自分の耳鳴りのつらさを理解してもらうことも大切です。話すことで気分が楽になったり、仕事場で配慮を得られたりするかもしれません。また同じ悩みを持つ人のサポートグループや患者会に参加するのも有益です。悩みを共有し情報交換することで精神的な支えになります。
これらの対策はあくまで補助的なものですが、積み重ねることで「耳鳴りにとらわれない生活」に近づくことが期待できます。一進一退はありますが、あせらず取り組んでみましょう。
まとめ
耳鳴りは非常に一般的な症状であり、その背後には難聴をはじめ様々な原因が絡み合っています。医学的に完全に治すのが難しいケースもありますが、多角的な治療と工夫で大半の耳鳴りは改善可能です。近年の研究の進展により、補聴器による聴力補償やTRT療法など効果的なアプローチが登場し、以前は「年のせいだから慣れるしかない」と言われていた耳鳴りも適切な対処で和らげられるようになってきました。何より耳鳴りそのものは生命に危険を及ぼすものではなく、重大な病気に発展する心配もまずありません 。不安を抱え込みすぎず、専門医に相談しながら根気強く対応していけば、きっと生活の質は向上します。
現在も世界中で耳鳴りのメカニズム解明と新しい治療法の研究が続けられており 、神経刺激デバイスの登場など明るい話題も出てきています。耳鳴りに悩む方は最新の情報にもアンテナを張りつつ、自分に合った対策を見つけていきましょう。大切なのは「一人で悩まないこと」です。適切な知識とサポートを得て、耳鳴りと上手につきあう術を身につければ、きっと日常を快適に取り戻せるはずです。