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アレルギー性鼻炎の病態、診断、治療

アレルギー性鼻炎とは

アレルギー性鼻炎とは、 特定の物質(アレルゲン)に対して鼻の粘膜が過敏に反応し、炎症を起こす疾患です。主な症状としては、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの3つが挙げられます。これらの症状は、アレルゲンが鼻の粘膜に接触することで、体内の免疫システムが過剰に反応し、炎症を引き起こすことによって発生します
 
アレルギー性鼻炎のメカニズムは、まず、アレルゲンが体内に入ると、IgE抗体という特殊な抗体が作られます。このIgE抗体が肥満細胞という細胞に付着し、次に同じアレルゲンが侵入した際に、肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンといった化学伝達物質が放出されます。これらの化学伝達物質が、鼻の粘膜の血管を拡張させたり、鼻水を分泌させたり、神経を刺激してくしゃみを引き起こしたりします。また、炎症細胞である好酸球なども鼻粘膜に集まり、慢性的な炎症を引き起こします
花粉を例にすると以下のような機序となります。
 
近年、アレルギー性鼻炎の患者数は世界的に増加傾向にあり、日本においてもその罹患率は人口の約4割に達しています。特に、スギ花粉症は増加が著しく、国民病とも言えるほど多くの人々が悩まされています。
アレルギー性鼻炎は、単に不快な症状を引き起こすだけでなく、社会全体にも大きな影響を及ぼしています。例えば、 労働生産性の低下です。鼻炎の症状によって、集中力が低下したり、欠勤や遅刻が増えたりすることで、仕事や学業の効率が低下してしまいます。研究によれば、アレルギー性鼻炎による労働生産性の損失は、1日あたり2.3時間にも及ぶと報告されており、これは年間3.6日間の欠勤に相当します
また、アレルギー性鼻炎の治療にかかる医療費も、社会全体で考えると相当な額になります。医療機関での診察や薬の処方だけでなく、市販薬の購入費用も考慮すると、その経済的な負担は決して小さくありません。

アレルギー性鼻炎の定義と分類

アレルギー性鼻炎は、症状が現れる時期や原因となるアレルゲンによって、大きく3つのタイプに分類されます
季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)
特定の季節に症状が現れるアレルギー性鼻炎です。主な原因は、植物の花粉です。日本では、春先にスギやヒノキ、夏にカモガヤなどの花粉が飛散し、これらの花粉に対するアレルギー反応によって、鼻炎の症状が現れます。花粉の飛散時期に合わせて症状が現れるため、予測が立てやすいのが特徴です
通年性アレルギー性鼻炎
季節に関係なく、一年を通して症状が現れるアレルギー性鼻炎です。主な原因は、ダニ、ハウスダスト、ペットの毛など、室内に存在するアレルゲンです。これらのアレルゲンは、私たちの身近な環境に常に存在するため、通年性アレルギー性鼻炎は慢性化しやすい傾向があります。
職業性アレルギー性鼻炎
特定の職業に従事している人が、職場で吸入する物質によって発症するアレルギー性鼻炎です。原因となる物質は、動物性抗原(養鶏業者の羽毛など)、植物性抗原(パン職人の小麦粉など)、低分子化学物質(塗装業者のイソシアネートなど)など多岐にわたります。問診で、就労時に症状が悪化し、休日には症状が軽減されるかどうかを確認することが重要です

アレルギー性鼻炎の原因となるアレルゲン

アレルギー性鼻炎の原因となるアレルゲンは多岐にわたりますが、主なものとして以下が挙げられます。

  • 花粉: スギ、ヒノキ、カモガヤ、ブタクサなど。
  • ダニ: ハウスダストに含まれるダニ。
  • ハウスダスト: ダニの糞や死骸、ホコリなど。
  • ペットの毛: 犬や猫などの動物の毛。
  • カビ: 室内のカビ。
  • 職業性アレルゲン: 小麦粉、羽毛、イソシアネートなど。
  • その他: ラテックス、ソバ、ピーナッツなど。

アレルギー性鼻炎のメカニズム

アレルギー性鼻炎は、アレルゲンが鼻の粘膜に侵入することによって引き起こされる、複雑な免疫反応です
①IgE抗体の産生 
アレルゲンが体内に入ると、免疫システムが反応し、B細胞という免疫細胞がアレルゲン特異的なIgE抗体を産生します。このIgE抗体は、肥満細胞という細胞の表面に結合します。
②化学伝達物質の放出 
次に、同じアレルゲンが侵入すると、肥満細胞に結合しているIgE抗体がアレルゲンと反応し、肥満細胞が活性化します。活性化された肥満細胞は、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質を放出します
③炎症反応 
放出された化学伝達物質は、鼻の粘膜の血管を拡張させたり、鼻水を分泌させたり、神経を刺激してくしゃみを引き起こしたりします。また、好酸球などの炎症細胞も鼻粘膜に集まり、炎症をさらに悪化させます
④鼻粘膜の過敏性亢進 
この一連の反応が繰り返されると、鼻の粘膜が過敏になり、わずかな刺激にも反応しやすくなります

アレルギー性鼻炎の症状

アレルギー性鼻炎の主な症状は、以下の3つです。

  • くしゃみ: 発作性のくしゃみが連続して起こることがあります。
  • 鼻水: 水のようにサラサラとした鼻水が特徴です。
  • 鼻づまり: 鼻の粘膜が腫れることで鼻の通りが悪くなります。

これらの症状に加え、以下の症状が現れることもあります。

  • 目の症状: かゆみ、充血、涙。
  • 喉の症状: かゆみ、痛み、咳。
  • 耳の症状: 耳のかゆみ、耳詰まり。
  • 頭痛、頭重感: 鼻づまりによるもの。
  • 嗅覚障害: 鼻の炎症により、匂いを感じにくくなる。
  • 睡眠障害: 鼻づまりにより、夜間の睡眠が妨げられる。
  • 集中力低下: 鼻炎の症状により、集中力が低下し、仕事や学業に支障が出ることがあります。
  • 口腔アレルギー症候群: 特定の果物や野菜を食べると、口の中がかゆくなったり腫れたりすることがあります。

小児のアレルギー性鼻炎

小児のアレルギー性鼻炎は、診断が難しい場合があります。特に3歳未満の乳幼児では、症状をうまく伝えることができないため、注意が必要です
小児のアレルギー性鼻炎の診断には、成人の診断基準を参考に、臨床症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまりなど)、抗原特異的IgEの検出鼻汁中の好酸球の有無などを総合的に判断します
小児のアレルギー性鼻炎は、いびきの危険因子にもなり、睡眠の質を低下させることがあります。また、学業成績集中力にも悪影響を与えることが報告されており、早めの治療が重要です
さらに、小児のアレルギー性鼻炎は、アレルギーマーチという概念で、他のアレルギー疾患(アトピー性皮膚炎や喘息など)の発症リスクを高める可能性が指摘されています

アレルギー性鼻炎の診断

問診

アレルギー性鼻炎の診断において、問診は非常に重要な役割を果たします。患者さんの症状や生活環境について詳しく伺うことで、診断の大きな手がかりを得ることができます。問診では、以下のような項目を確認します。
 
①症状の詳細: いつから、どのような症状が現れているか、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目の痒み、その他の症状など、具体的な症状について詳しくお伺いします
②症状の持続期間と発症時期: 症状がどれくらい続いているか、季節性か通年性か、症状が悪化する時期や時間帯などを確認します
③既往歴と家族歴: 過去にアレルギー疾患にかかったことがあるか、家族にアレルギー体質の人がいるかどうかなどを確認します
④生活環境と職業歴: 自宅の環境(ペットの有無、喫煙の有無など)や職場環境、どのようなアレルゲンに曝露する可能性があるかなどを確認します

アレルギー性鼻炎の検査

鼻汁好酸球検査
鼻汁好酸球検査は、鼻腔内をスワブでぬぐい、鼻汁中の好酸球の数を調べます。好酸球は、アレルギー性炎症に関わる細胞であり、アレルギー性鼻炎ではその数が増加する傾向があります採取した鼻汁をスライドグラスに薄く伸ばし、ハンセル染色またはギムザ染色という特殊な染色液で染色し、顕微鏡で観察します。当院は院内で施行できないため外注しています。
血液検査
①血清総IgE検査
血液中のIgE抗体の量を測定し、アレルギー体質かどうかを調べます。一般的に、通年性アレルギー性鼻炎ではIgE抗体値が上昇する傾向があります
 
②抗原特異的IgE検査
特定のアレルゲンに対するIgE抗体の有無を調べます。これにより、花粉、ダニ、ハウスダストなど、原因となるアレルゲンを特定することができます。また、多項目同時測定では、少量の血液で複数のアレルゲンに対するIgE抗体を同時に測定することが可能です
 
③小児の検査
 3歳未満の乳幼児では、通常の採血が難しい場合があります。当院では原則6歳以上の患児に採血を行っています。(6才未満の方は小児科を受診してください)
そのような場合には、指先から少量の血液を採取して検査するイムキャップラピッドというキットが利用できます
 
④皮膚テスト
皮膚テストは、アレルゲンに対する皮膚の反応を調べる検査です皮内テストスクラッチテストプリックテストなどがあります。これらの検査では、アレルゲンエキスを皮膚に接種し、一定時間後に皮膚の反応を観察します。皮膚が赤く腫れたり、痒くなったりした場合、そのアレルゲンに対するアレルギー反応があると判断できます。ただし、皮膚テストを行う際には、抗ヒスタミン薬などの影響を考慮する必要があります
 
⑤鼻粘膜誘発試験
鼻粘膜誘発試験は、アレルゲンのディスクを鼻の粘膜に直接接触させ、鼻粘膜の反応を観察する検査です。有用な検査ですが、現在は検査するための薬剤ディスクが不足しており施行困難です。
 
詳細は以下のページをご参照ください
診断基準
  • くしゃみ、鼻水、鼻づまりの3症状があり、以下の3項目のうち2項目以上が陽性の場合、アレルギー性鼻炎と診断されます
  1. 血清中抗原特異的IgE・皮内テスト・スクラッチテストのいずれか1つ以上が陽性
  2. 抗原誘発試験が陽性
  3. 鼻汁中好酸球が陽性
      1.  
  • 花粉症の場合、花粉飛散期に鼻汁中好酸球陽性を認めることが重要です。
鑑別診断

感染性鼻副鼻腔炎との鑑別が重要です。アレルギー性鼻炎の患児がウイルスや細菌感染に罹患することもあるため、常にその時点での炎症の状態を考慮し、対応する必要があります。

項目 アレルギー性鼻炎 感染性鼻副鼻腔炎
病態 I型アレルギー反応 ウイルス/細菌感染
症状 くしゃみ、水性~粘性鼻汁、鼻閉 ウイルス性の初期は水性、膿性鼻汁、鼻閉、後鼻漏
随伴症状 眼のかゆみ、流涙 発熱、湿性咳嗽、頭痛、頬部痛など
症状経過 当該抗原に一致して出現 「かぜ」なら1-2週間で治癒、鼻副鼻腔炎は時に長引く
鼻汁の性状 水性~粘性 粘膿性~膿性
鼻汁細胞診 好酸球優位  

アレルギー性鼻炎の治療法

治療の目標

アレルギー性鼻炎の治療目標は、単に症状を抑えることではなく、以下の点を達成することです。

  • 症状の完全消失、またはごく軽度な状態を維持すること。
  • 日常生活への支障をなくすこと。
  • 急性悪化を防ぐこと。
  • 薬の使用を最小限に抑えること。

これらの目標を達成するために、患者さんの症状やライフスタイルに合わせて、最適な治療法を選択する必要があります。

抗原の回避と除去

アレルギー性鼻炎の治療の基本は、アレルゲンを回避し、除去することです。

  • 室内環境の整備: 自宅では、定期的な掃除と換気を心がけ、アレルゲンを吸着する空気清浄機を使用すると良いでしょう。寝具はこまめに洗濯や乾燥を行い、カーペットやぬいぐるみなどのアレルゲンが溜まりやすいものはできるだけ使用を避けるようにしましょう。
  • 花粉対策: 外出時には、マスクやメガネを着用し、花粉が体内に入らないようにしましょう。帰宅時には、衣類を払い落としてから室内に入り、花粉飛散情報を確認して外出を控えるようにしましょう。

薬物療法

薬物療法は、アレルギー性鼻炎の症状を緩和するための重要な治療法です。

  • 抗ヒスタミン薬: ヒスタミンの働きを抑え、くしゃみ、鼻水、痒みなどの症状を緩和します。近年では、眠気の少ない第二世代抗ヒスタミン薬が主流となっています。理想的な抗ヒスタミン薬は、即効性があり、効果が持続し、眠気や作業効率の低下といった副作用が少なく、長期投与が可能で、1日1~2回の投与で済むものです。増量投与が可能な薬剤も登場しています。
  • 抗ロイコトリエン薬: ロイコトリエンという炎症物質の働きを抑え、主に鼻づまりの改善に有効です。また、炎症細胞の浸潤を抑制する効果もあります。
  • 鼻噴霧用ステロイド薬: 鼻の粘膜の炎症を抑え、鼻づまり、鼻水、くしゃみなどの症状を幅広く改善します。また、眼の痒みや充血などの眼症状にも効果があることが分かってきています。1日1回投与の薬剤も登場しており、利便性が向上しています。
  • 抗IgE抗体療法: 重症のアレルギー性鼻炎で、既存の治療法では十分な効果が得られない場合に考慮される治療法です。抗IgE抗体は、IgE抗体の働きを抑制することで、アレルギー反応を抑えます。注射剤であり、専門医による管理が必要です。
  • その他の薬剤: 症状に応じて、血管収縮薬(鼻づまりの緩和)、点眼薬(目の痒みや充血の緩和)、漢方薬(体質改善)なども使用されます。

詳細は以下のページをご参照ください

アレルゲン免疫療法

アレルゲン免疫療法は、アレルギー体質を根本的に改善するための治療法です。

  • 皮下免疫療法(SCIT): アレルゲンエキスを皮下に注射し、徐々に増量していくことで、アレルゲンに対する体の反応を弱めていきます。5歳以上が対象となり、アナフィラキシーショックのリスクに注意が必要です。
  • 舌下免疫療法(SLIT): アレルゲンエキスを舌下に投与する方法です。スギ花粉症とダニアレルギー性鼻炎に対して保険適用となっており、長期的な効果が期待できます。また、小児への適応拡大も進んでいます。自宅で治療が可能であり、副作用も少ないことから、近年注目されています。治療期間は3~5年と長く、継続することが重要です。 ヒノキ花粉症に対する効果については議論があります。 舌下免疫療法は、医療経済的にも有用であるというデータも出ています。
  • 併用療法: スギとダニの両方にアレルギーがある場合は、両方の舌下免疫療法を併用することが可能です。

詳細は以下のページをご参照ください

手術療法

手術療法は、重症の鼻閉型アレルギー性鼻炎で、薬物療法や免疫療法では効果が得られない場合に考慮される治療法です。

  • 下鼻甲介手術: 下鼻甲介の粘膜や骨を切除することで、鼻腔の通気を改善します。レーザー手術や粘膜下下鼻甲介骨切除術、粘膜下組織切除術などがあります。

  • 後鼻神経切断術: 鼻汁の分泌をコントロールする神経を切断する手術です。

生活習慣とアレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎は、生活習慣とも密接な関わりがあります。

  • 睡眠: アレルギー性鼻炎の症状(鼻閉、くしゃみ、鼻漏)は、睡眠障害の原因となり、日中の眠気や集中力低下を引き起こします。また、抗ヒスタミン薬の副作用で眠くなる場合もあるため注意が必要です。
  • 嗅覚: アレルギー性鼻炎による鼻粘膜の炎症は、嗅覚障害を引き起こすことがあります。嗅覚は、生活の質(QOL)に大きく関わるため、嗅覚障害が生じると日常生活に支障をきたすことがあります。
  • 食事: 食事によって鼻汁が増加することがあります。また、花粉症の方は、特定の食物に対して交差反応を起こし、食物アレルギーを発症する可能性があります。これを花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)といいます。PFASの診断には、問診とコンポーネント検査が重要です。
  • 運動: 運動によって、症状が悪化することがあります。また、小児のアレルギー性鼻炎は、運動制限につながることもあります。
  • ストレス、アルコール、薬剤: ストレス、アルコール、特定の薬剤は、アレルギー性鼻炎の症状を悪化させる可能性があります。

まとめ

アレルギー性鼻炎は、適切な治療と対策を行うことで、症状をコントロールし、快適な生活を送ることができます。アレルギー性鼻炎の症状に悩んでいるのであれば、ぜひ一度専門医に相談してください。

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