鼻うがいのやり方と効果、注意点を耳鼻科医が解説
鼻うがいとは?
鼻うがいの目的
異物の除去
鼻腔内部には、微細な毛(維毛)があり、これが外部からの異物をキャッチする役割を持っています。しかし、多量のほこりや大気中の汚染物質が堆積すると、この機能が低下する可能性があります。鼻うがいは、これらの余分な異物を除去し、鼻の機能を維持するために役立ちます。
感染予防
鼻は呼吸器系の入り口となる部位であり、ウイルスや細菌の侵入経路ともなりえます。特定の細菌やウイルスが鼻腔内に定着することで、上気道感染症のリスクが上昇します。鼻うがいは、これらの病原体を物理的に洗い流すことで、感染のリスクを低減させることが期待されます。
アレルギー対策
アレルギー反応は、特定のアレルゲンが体内に侵入することで起こります。花粉やダニの排泄物など、鼻を通じて体内に侵入するアレルゲンを洗い流すことで、アレルギー反応の発症や症状の悪化を抑制することが可能です。
鼻の不快感の軽減
副鼻腔炎(蓄膿症)や上咽頭炎の予防と症状緩和
鼻うがいはどのような方におすすめか?
・風邪予防(コロナ対策):新型コロナウイルスの陽性判定後であっても、1日2回の鼻洗浄によって入院や死亡のリスクが低減することが報告されています。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36007135/
- 花粉症
- 後鼻漏のある方
- 副鼻腔炎になりやすい方
- 慢性上咽頭炎およびBスポット療法中
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風邪予防をしたい方
-
鼻詰まりが気になる方
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副鼻腔炎になりやすい方や、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の方
-
新型コロナウイルス感染症の後遺症で悩んでいる方
-
鼻の奥に不快感がある方
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鼻うがいの器具
基本的には下記のような専用の器具を使用した方が良いです。
市販されている鼻うがい容器がいくつもあります。
ハナノア(小林製薬)
- 特徴: 小型の哺乳瓶のような形状で、20mlの洗浄液を使用します。
- 洗浄液: 体液に近い生理食塩水にグリセリンとミントの微香料が配合されており、少しとろみがあります。
- 使用方法: 顔を少し下に向け、洗浄器具を押して洗浄液を鼻に流し込みます。「アー」と声を出しながら行うと、耳に洗浄液が流れ込みにくいとされています。
- 種類: ハナノアシャワータイプ(鼻から入れて鼻から出す)、ハナノアデカシャワー(たっぷり洗浄したい方向け)があります。
- メリット: 痛みがなく、使用後の爽快感が得られます。小さいので持ち運びもしやすいです。
サイナスリンス(ニールメッド)
- 特徴: 大容量のボトルを使用し、水流が多いため、鼻腔全体をしっかり洗浄できるのが特徴です。
- 洗浄液: 生理食塩水の素を使用し、重曹が配合されています。キシリトール入りの洗浄液も販売されています。
- 使用方法: ボトルに精製水または蒸留水を入れ、洗浄液の素を溶かして使用します。
- メリット: 水流が多く、爽快感が得られます。鼻腔をしっかり洗える点が評価されています。
- その他: ボトルは劣化するため、3ヶ月ごとの交換が推奨されています。医療機関専用品ですが、ネットでも購入可能です。
ハナクリーン(東京鼻科学研究所)
- 特徴: 日本製の鼻うがい器で、細やかな配慮がなされています。
- 種類:
- ハナクリーンS: **中容量(150ml)**タイプで、温度計が付いており、洗浄液の温度がわかりやすいです。
- ハナクリーンα: **大容量(300ml)**タイプで、ピストンポンプ式で安定した水圧で洗浄できます。
- 洗浄液: 専用の洗浄液「サーレ」を使用します。
- メリット: パーツの交換や修理が可能で、長く使えるように設計されています。温度計が付いているため、適切な温度の洗浄液を簡単に作れるのが特徴です。
- その他: 鼻の奥をしっかり洗えるという意見や、日本人が作った製品で、細やかな作りであるという意見があります。
EMSハナ通り
- 特徴: ドイツ製の鼻うがい器で、静圧で優しく鼻を洗えます。
ナサリン
- 特徴: シリンジタイプで、ピストンで洗浄液を注入します。
- 使用感: 水圧や注入速度を自分で調整できるため、痛みを抑えやすいとされています。
- 種類: 大人用と子供用があります。
- その他: スウェーデンの耳鼻科医が考案した製品です。
ウォーターパルス
- 特徴: 重力を利用して自然に水が落下する鼻洗浄器です。
- 使用感: ボタンを押すだけで水が鼻に入っていくため、鼻うがいの怖さが少ないという意見があります。鼻うがいに慣れていない人でも使いやすいという意見があります。
ボタンを押すだけで水が鼻に入っていくため、鼻うがいの際に感じる恐怖感が少ないという意見もあります。
その他
- ハナオート: 電動式の鼻うがい器です。
- フローサイナスケア: 鼻から入れて鼻から出すタイプの鼻うがい器です。
サイズ感
- 低容量:ハナノアa(30mL)、ハナノアb(50mL)
- 中容量:ナサリン(60mL×2)、ハナクリーンS (150mL)
- 高容量:フロー・サイナスケア(200mL)、サイナスリンス(240mL)、ハナノアデカシャワー(250ml)
- 超高容量:サイナスリンスメガボトル(480ml)、ウォーターパルス(300mL)、ハナクリーンα(300mL)、ハナオート(380ml)
個人的には、鼻腔へのフィット感とサイズ感からサイナスリンスが好きです(全部試したわけではないのであくまで感想です)。どの製品でも目的は達成できると思いますので、使用感がよいもので続けていただければ良いと思います。
専用の洗浄剤が付いているものがほとんどですが、費用がかかるので、洗浄液は後述するように水道水で生理食塩水を作成してもよいです。
洗浄液の準備
鼻に水をいれるとなると、痛いのでは、と不安になる方も多いと思います。子どものころプールで水が入って、鼻がツーンとした思い出がよみがえりますね。
ちゃんと浸透圧を調整し、適切な温度で鼻うがいすれば、痛くありません。それが生理食塩水なのです。
生理食塩水は浸透圧が体の組織に合っているため、しみることがなく、組織へのダメージも少ないと考えられています。
売られているリフィル用の粉などを使用しなくても、簡単に作成することができます。
生理食塩水の作り方
- 清潔な容器に、500mlの沸騰させたお湯を準備します。
- お湯を37~40℃程度まで冷まします。
- 食塩4.5g(小さじ1杯弱) をお湯に溶かして混ぜます。ミネラルを含まない精製された塩を使用してください。
- 使用する直前に作り、残った液は捨ててください。
- 水道水を使用する場合、特に海外では、煮沸してから使用するか、蒸留水を使用するようにしてください。
- 日本では水道水の水質が高いため、そのまま使用することも可能ですが、心配な場合は、一度沸騰させて冷ました水を使用するとより安心です。
- 推奨する温度: 洗浄液の温度は、20~40℃が推奨されます。冷たすぎると鼻の粘膜を刺激し、温かすぎると粘液を排出する機能が低下する可能性があります。
- 浸透圧: 人間の体液の塩分濃度は約0.9%です。生理食塩水はこの浸透圧を体液と同じにすることで、鼻への刺激や痛みを軽減します。
洗浄液の追加成分
- ポビドンヨード: 殺菌効果があります。
- キシリトール: 鼻うがい後の爽快感を高めるとされています。
- 重曹: 繊毛の活動が活発になるとされています。
※水道水で良いのか?
米国で鼻うがいをした際に、水の中に含まれていたアメーバのせいでアメーバ脳炎になって死亡したという症例が報告されています。米国FDAは、水道水をそのまま鼻洗浄に用いないように、と警告を出しています。 アメーバ脳炎の原因となるのはネグレリア・フォーレリという原虫(寄生虫の一種)です。温暖な気候の淡水に生息していると言われています。
日本で飲用の水道水を用いる限りはアメーバ脳炎のリスクは極めて低いと思います。日本の上水はかなり清潔であり、アメーバが繁殖している可能性は非常に低いです。ただし、余裕がある方は煮沸した水道水やミネラルウォーターを用いていただいた方が良いと思います。
鼻うがいの手順
- 前かがみの姿勢になります。上を向くと洗浄液が耳に入り中耳炎になる可能性があるため注意が必要です。
- 口を軽く開け、「えー」と声を出しながら、ノズルを鼻の穴に軽く押し当てます。
- 洗浄液をゆっくりと鼻腔内に注入します。
- 洗浄液を、反対側の鼻の穴から出すか、または入れた側の鼻から出します。口から出しても構いません。
- 鼻うがい後、鼻を強くかまず、優しく片方ずつかんで洗浄液を排出します。
- 使用後は、器具を清潔に洗い、十分に乾燥させてください。
- 特に、感染症(風邪や副鼻腔炎)の疑いがある場合は、使用後の器具の消毒を徹底してください。
※発声に関して
「あー」か「えー」で行うことが多いと思いますが、個人的には「えー」をお勧めしています。
「えー」のほうが、軟口蓋(のどちんこのあたり)の挙上がよく、洗浄水が上咽頭でよく滞留すると考えれるからです。本来の目的は、耳に水が入るのを防ぐことですので、どちらでもご自身のやりやすい方で良いと思います。
鼻うがいの頻度
- 1日1~2回程度を目安に行いましょう。
- 鼻の手術後の方は、1日3回程度の洗浄が推奨されることがあります。
- 洗いすぎると、鼻粘膜に必要な粘液まで洗い流してしまう可能性があるため、注意が必要です。
- 朝起きた時や夜寝る前に行うと良いでしょう。
鼻うがいの注意点
洗浄液は①洗浄液を入れた鼻孔から、②反対側の鼻孔から、③鼻の奥を通って口からでてきます。洗浄液がどこからでてきても鼻の中は充分に洗えています。無理に口から出そうとして水圧を強くしすぎたり、反対の鼻を塞いだり、吸い込んだりしないでください。
洗浄後しばらくしてから鼻の奥に残った洗浄液が出てくることがありますが問題はありません。前かがみになり、首を左右に傾けると出やすくなります。耳に負担がかかるため鼻を強くかまないでください。
※鼻の奥には耳とのどをつなぐ管があるので、圧がかかりすぎると中耳炎を起こすことがあります。初回の洗浄時にはゆっくり弱い力で押し、徐々に自分に合った圧力に調整するようにしてください。鼻を密閉しなくても洗浄はできますのでノズルを強く押し付けすぎないように注意してください。耳に痛みを感じた場合には洗浄を中止してください。
やりすぎない
鼻腔は、粘液を分泌して外部の病原体や異物をキャッチする役割があります。頻繁な鼻うがいは、この粘液を過度に洗い流してしまい、自然なバリア機能が低下する恐れがあります。
適切な濃度温度を心がける
塩の量や水の温度を適切に調整することで、鼻腔の粘膜への刺激を最小限に抑えることができます。特に冷たすぎる水や濃すぎる塩水は、粘膜に刺激を与えるため避けるようにしましょう。
鼻の症状がひどすぎる時は注意
急性副鼻腔炎の急性期では、鼻に出ている膿性鼻汁が耳にまわって中耳炎を引き起こしてしまうことがあります。
鼻うがいの最中に唾液や洗浄水を飲み込まない
鼻うがいをする際には生理食塩水を鼻からゆっくりと注入していくのですが、この際に唾液や洗浄水を飲み込んでしまうと、耳管と呼ばれる部分に水が入り、中耳炎を起こすことがあります。また、鼻腔の中に水分が残っている状態で鼻をかんでも、中耳炎の原因となります。
鼻うがいに関するよくある質問
入れても同じ側の鼻から出てきてしまいます
入れた鼻の反対側の鼻や口から出てこなくても大丈夫です。やっているうちにだんだん出来るようになってくることが多いですが、できなくても問題ありません。また、無理に反対側や口から出そうとしてすすったりしないでください。
耳が毎回痛くなります
耳管(耳と鼻をつないでいる管)が開きやすいのかもしれません。中耳炎を発症してしまうリスクがあるので、今よりも優しめにやる、必ず前かがみであまり上を向かないようにする、鼻すすりをしないなどの対応をしてもなお同じ症状であれば、鼻うがいはやらない方が良いと思います。
洗浄後に少し時間が経ってから鼻から液体が出てくることがあります
洗浄時に副鼻腔に残った洗浄液が前かがみになったり、時間を置いて出てくることがあります。
副鼻腔までしっかり洗い流せている証ですのでご安心いただき、再度やさしく鼻をかみなおしてください。
まとめ|鼻うがいは適切な方法で行いましょう。
鼻うがいは、適切な方法で行うことで多くのメリットを享受することができますが、不適切な方法で行うと、鼻腔の健康を損なう恐れがあります。
正しい知識と技術を持って実施することで、鼻の健康を維持し、さまざまな症状の予防や改善に役立てることができます。