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EAT(Bスポット療法、上咽頭擦過療法)

慢性上咽頭炎とは?

上咽頭の解剖イラスト

上咽頭とは、喉の1番上の部分(鼻の奥でもあります)のことで、慢性上咽頭炎とは、そこに慢性の炎症が起こっている状態です。
原因は、感冒(新型コロナなどのウイルス感染)後に炎症が残存してしまうこと、アレルギー含む鼻炎や副鼻腔炎による鼻漏が上咽頭に流れること、口呼吸により鼻咽頭の環境が悪くなること、逆流性食道炎で胃酸による粘膜障害が起こることなどが挙げられます。汚い空気の中に長期間いたり、喫煙なども影響します。いずれの原因にせよ、持続的な刺激が上咽頭に加わることで発症します。

 

上咽頭の正常所見①

上咽頭の粘膜肥厚がなく、血管が良好に透過されます。喀痰の付着もありません。

 

上咽頭の正常所見②

正常な上咽頭をNBIという特殊な光を用いたファイバーで観察した像です。粘膜の下に走行する正常な血管を透過することができます。

 

 

慢性上咽頭炎例①

上咽頭の粘膜が全体に腫れていて、ぼこぼこしています(敷石状変化)。血管は腫れた粘膜の下に走行しているので、NBIを用いても確認することができません(血管の途絶)。また、NBI画像では粘膜の下の微小な出血(粘膜下出血)を多数確認できます(黒斑)。

 

慢性上咽頭炎例②

①と同様に敷石顆粒状変化、黒斑、血管の途絶などの所見を認めます。発赤も高度です。

 

Bスポット療法(EAT療法:上咽頭擦過療法)とは?

塩化亜鉛溶液を染みこませた綿棒を鼻や口から直接上咽頭にこすりつけ刺激をするだけのシンプルな方法です。

(当院では鼻腔ファイバーを使いながら「鼻から」擦過を行っています。ご希望の方には口からも施行します)
▶︎池袋ながとも耳鼻咽喉科の『Bスポット療法(EAT療法:上咽頭擦過療法)』の相談はこちら

  • 塩化亜鉛の収斂・殺菌効果
  • 瀉血作用(綿棒による物理的効果)
  • 迷走神経(もしくは自律神経)刺激効果
    があるとされています。

塩化亜鉛には患部を収縮させる作用があるため、炎症の鎮静化に効果的です。炎症が鎮静化することにより、上咽頭炎が原因の痛みや放散症状の改善が期待できます。

塩化亜鉛による抗炎症作用、擦過の物理的刺激による潟血作用、視床下部刺激による自律神経系・内分泌系、脳脊髄液系の調整作用等により、全身性に影響を与えていると想定されています。

塗布する薬剤や塩化亜鉛を用いる場合がほとんどで、当院では0.5%塩化亜鉛(初期もしくは痛みに弱い方用)、1%塩化亜鉛(通常はこちら)を用います。ルゴールをご希望の場合は、相談して行いますが、効果は塩化亜鉛と比較すると限定的と考えています。

Bスポット療法全国で耳鼻咽喉科医を中心に、限られた施設で行われている治療です。Bスポット療法に関しては、病巣疾患研究会で最も活発に議論されています。(院長も研究会メンバーです)研究会Hpでは会員ない方も閲覧することができる有益な情報がありますのでご参考にしていただければ幸いです。

日本病巣疾患研究会のリンク

Bスポット療法初回例(典型的な初回治療例)

治療前(左)は粘膜の肥厚、喀痰が付着しています。
治療後(右)はBスポット療法によって容易に出血し、粘膜下の膿栓も圧出されました  

 

Bスポット療法初回例(上咽頭炎軽度)

このような症例では上咽頭炎は軽度なので、Bスポット療法の効果は限定的と考えられます。

治療前(左) 新型コロナ後遺症 上咽頭の粘膜肥厚は軽度で血管透過性も良好です。上咽頭炎としては軽症といえます。
治療後(右) Bスポット療法初回。白色変化は認められますが、出血はありませんでした。

 

Bスポット療法複数回例

他院での治療後ですが、真ん中の部分は瘢痕化し、白色になっています。NBIでみるとよりわかりやすいです。上の方は敷石上変化が残っております。この辺りは内視鏡を用いながら鼻から治療を施行しないと擦過不足が起こりやすい部位です。

 

治療効果が期待できる症状、疾患

  • 後鼻漏、咳や咳、咽頭異常感、声のかすれ
  • めまい、耳鳴り、難聴、耳閉感、自声強聴
  • 頭痛、顎関節痛、いびき
  • 自律神経系の症状
  • 全身倦怠感、肩こり、線維筋痛症
  • 睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害、慢性疲労症候群
  • IgA腎症、掌蹠膿疱症、慢性関節リウマチ、アトピー性皮膚炎
  • アレルギー性血管炎、乾癖

上記の疾患は、あくまで効果が期待できる程度のものであり、症状によってはBスポット治療を行っても全く効果の出ないこともあります。どの程度まで改善するかも個人差が大きいです。

最も訴える方が多い症状は後鼻漏でなおかつ最も治しづらいのも後鼻漏です。鼻汁が喉に流れること自体は生理的な現象なので止めることはできません。後鼻漏というのはその鼻汁が粘液性になったり、のどの知覚が敏感になってしまった時に感じられるわけですが、特にこの症状で長年苦しまれている方ほど、全く後鼻漏がない状態を目指すのは難しいことが多いです。

副鼻腔炎や急性上咽頭炎などの急性炎症以外の場合は、我々が内視鏡で診察しても、後鼻漏のもと(分泌された鼻汁や粘液)を確認できることは多くありません。長年の後鼻漏によって過敏となった喉の感覚が、後鼻漏の原因(後鼻漏感)でもあるため、EATがあまり効果を表さないこともあるのです。

「日常生活に支障がない(本人が気にならない)状態」を治療のゴールと考えています。発症して間もない後鼻漏は、適切な治療と養生により多くの場合で治癒しますが、慢性的な後鼻漏(とくに発症して1年以上経過)は、他の慢性疾患と同じように「治る場合もあるが、治らない場合もある」のが現状です。

慢性上咽頭炎に対するEATを行った論文では、EAT10回施行時の症状の改善度合いは以下のように述べられています。(大野ら 口咽科 2022:35(2)138~145より一部改変)

症状 患者数 著明改善率
頭痛 94 50.0%
後鼻漏 127 35.4%
鼻閉 105 46.7%
咽頭違和感 133 57.9%
咽頭痛 112 57.1%
耳閉感 57 61.4%
めまい 60 61.7%
93 49.5%
嗄声 21 61.9%
疲労感・倦怠感 14 71.4%

 

治療回数

重症度や罹患機関などの個人差はありますが、週に1~2回で計10回~15回程度で効果を判定します。その時点で治療効果がみられていれば継続、効果がみられていない場合は無理に継続することをお勧めしていません。

症状が一過性に改善しても、上咽頭の炎症が残存した状態でBスポット療法を中断すると、症状が再度増悪して繰り返すこともあります。通常は症状が改善された場合そこで治療が終了となりますが、状態維持のために継続して治療を行う方もいらっしゃいます。

費用について

  • 初回:初診料+鼻咽腔ファイバーなどの検査料+処置料+処方箋料など3000円程度(3割負担の場合)
  • 2回目以降:同じ処置を行って500円程度(3割負担の場合)

※当院では、ほぼ全例に内視鏡下EATを行っております。月に1度のみ内視鏡費用をご請求させていただきます。その場合は3割負担で2300円程度かかります。何卒ご了承のほどお願いいたします。
▶︎池袋ながとも耳鼻咽喉科で『Bスポット療法(EAT療法:上咽頭擦過療法)』の相談予約をしてみる

Bスポット療法に欠点はあるのか?

まずは上記のすべての症状に有効な治療でないことはご承知おきください。慢性上咽頭炎やコロナ後遺症(Long-COVID)に対する有効な治療法であると考えていますが、すべての症状がBスポット療法で改善するわけではありません。

  • 治療後の上咽頭や中咽頭におけるヒリヒリとした痛みは「ひどい風邪をひいたときのノドの痛み」によく似たものであり、この痛みは2~3日間は続くことがあります。痛みには個人差がありますが、基本的には上咽頭の炎症が強いほど痛みがでます。しかし、2回目以降は回を追うごとにこの痛みが軽減してまいります(痛みの軽減は治療効果の指標となります)
  • 5回目を過ぎるころにはこの痛みは数時間程度のものに軽減される方が大半であるために治療効果、費用の安さなどから考えますと非常に有効な治療といえます。
  • 治療通院が頻繁(週2~週1)に必要になるため、お忙しい方には通院がデメリットになると思います。
  • 現時点で、Bスポット療法による目立った有害事象は報告されていませんが、塩化亜鉛による嗅覚障害が発生したという報告はあります。
  • 最近喘息の発作が出た方や、血液をサラサラにする薬を複数飲まれている方は治療対象外です。

他院で数十回治療を施行されている場合でも症状は改善していない場合は、当院で施行しても改善は困難と考えております。施行する医師の技量によって多少の差は生まれるものと思われますが、上咽頭は広くはないため、数十回施行されていれば多少のムラはありつつも概ね擦過できていると考えられます。その中でも症状が改善していないとなれば、そもそもEATが適切な治療方法ではないと判断できるからです。

特に、新型コロナ後遺症に関しては、Bスポット療法以外の治療法についてヒラハタクリニックの平畑光一先生が、非常に詳しくまとめていただいておりますので、参考にしていただければと思います。

https://www.longcovid.jp/

Bスポット療法は何歳から可能か?

Bスポット療法に年齢制限はありませんが、炎症があると痛みますので、処置の怖さや痛みに耐えられる年齢、つまり小学校高学年ぐらいから当院では実施することができます。

また、痛みに耐えづらそうなお子さんにはルゴール消毒液による刺激のみを選ぶようにしています。

注意点・副作用

  • 薬剤を塗布した後は数時間ヒリヒリします。また、塗布後出血が一定期間続く事があります。上咽頭に炎症がある場合にはヒリヒリ感や出血が多く、なおかつその後治療が効果を示すといわれています。炎症がおさまるに従い、ヒリヒリ感や出血は減っていきます。

  • 妊娠中の方や授乳中の方の治療も可能です。

  • 薬を塗った後、鼻水や痰が数時間続くことがあります。これは上咽頭の粘膜が薬で刺激を受けておこるので心配はありません。

  • 治療後、飲食の制限は特にありません。

  • Bスポット療法でもネブライザー治療やのみ薬など現在受けておられる治療法を中断する必要はありません。

自宅でできることはあるか?

鼻うがい

鼻うがいをしているイラスト

鼻のなかに付着した花粉、ハウスダストなどの抗原物質、ウイルスや細菌を含む鼻汁を洗い流す治療です。他にも腺毛機能(異物や病原体を外に出す作用)の改善や粘膜の保護効果があります。
ご自宅で簡便にできる方法ですが、キットをご利用された方がやりやすいと思います。詳しくは以下のリンクをご参照ください。

ミサトールリノローション

ウメのエキスを抽出し、体内に入れられるように浸透圧などを調整したものです。ウメは、トリテルペノイドという化合物の一つであるオレアノール酸やウルソール酸が含まれており、これから炎症物質(サイトカイン)であるTNF-α(腫瘍壊死因子-アルファ)やIL-6(インターロイキン6)を抑えるとされています。

これまでミサトールは様々な研究が成されており抗腫瘍効果、抗炎症効果などが報告されています。

ミサトールリノローション

 

鼻呼吸をする

口呼吸になってしまうと上咽頭が乾燥し、慢性上咽頭炎の原因になります。
睡眠時に口が開いてしまう場合は、テープで口を利用します。(例:優肌絆。採血した後などにも使用する肌に優しいテープです。多くの病院で使われているので医療従事者にはなじみが深い商品です)

口閉じようのテープ

首の後ろや手首を温める

首の血流が悪いと上咽頭炎の改善が阻害される可能性がありますので、首の後ろを温めて血流を改善させます。また、手首・足首・首には、薄い皮膚の下に太い血管が通っています。
また、自律神経を整えるツボもあるそうです。
手先・爪先を温めるより、手足と頭をつなぐ首の部分を温めることで全身の血行をよくすることができます。
このあたりの情報は、鍼灸院の先生方の方が詳しくホームページで発信していらっしゃいますのでご参照ください。

よくある質問

Q:どんな人にBスポット療法を行いますか?

A:慢性上咽頭炎の方が対象です。内視鏡検査では上咽頭炎の見た目でなくても擦過すると出血する場合があり、その方は炎症ありとして治療対象になります。「のどの炎症をよく繰り返す」「元々のどが弱い」「風邪をひきやすい」という方に、この治療を積極的に行っています。またホームページを見て来院される方も多いです。IgA腎症、ワクチン後遺症、掌蹠膿疱症、慢性疲労症候群と診断された方も、この治療に来院されています。

Q:Bスポット療法は痛いですか?

A:綿棒などを鼻から入れて動かしますので、ある程度痛みはあります。また、上咽頭に炎症がある方ほどヒリヒリするような痛みがでるとされています。もちろん施術前に鼻から麻酔のスプレーなどは行いますが、痛くない治療とは言えないのが欠点です。痛みは回数を重ねたり、炎症が治まれば軽減していく傾向にあります。

Q:保険診療ですか?

A:はい、すべて保険診療です。

Q:Bスポット療法の効きにくい人はいますか?

A:そもそも上咽頭炎の診断ではない方。ストレスや睡眠不足などで免疫力の落ちた方。また、頑固な肩こり首こりなどがある方は後頚部の血流が悪いので上咽頭炎の治療をしていても、直したい症状がなかなか治らない時があります。そういった方には漢方や個人的には鍼灸治療など他のアプローチがよいのではと考えています。

個人的な見解としては「Bスポット療法が効く人には効くが、そうでない場合もあり、やってみないと分からない」という印象です。Bスポット療法により上咽頭の炎症はおさまっても何らかの症状が続くケースもあり、数ヵ月にわたる長期間の治療(Bスポット療法と、内科での漢方薬など処方・定期的な血液検査)を続けている方もいらっしゃいます。

Q:どのくらいの頻度で通院が必要ですか?

A:炎症が強いときはできれば週2回程度がお勧めです。難しい場合は、週1回でも構いません。症状が落ち着いてきたら2週に1回、月に1回など徐々に通院間隔を開けていき、それでも症状が増悪しなければ終了を検討していきます。

 

記事執筆者

池袋ながとも耳鼻咽喉科
院長 長友孝文
日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会 専門医    


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