花粉症の注射について
花粉症の注射治療まとめ
花粉症の症状を和らげる注射治療には、アレルゲン免疫療法(減感作療法)を除くと大きく4種類あります。
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抗IgE抗体注射(ゾレア皮下注射)
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ステロイド注射(副腎皮質ステロイドの筋肉注射)
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ヒスタグロビン注射(非特異的減感作療法の一種)
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ノイロトロピン注射
当院ではゾレアしか施行できませんのでご注意ください
抗IgE抗体注射(ゾレア皮下注射)
仕組みと特徴
オマリズマブ(商品名ゾレア)は、IgE抗体(アレルギー反応のカギを握る抗体)に対するヒト型モノクローナル抗体という最新のバイオ医薬品です。
アレルギーの元凶であるIgEという抗体そのものを無力化する注射です。ゾレアは体内でIgEに結合し、IgEが肥満細胞や好塩基球といったアレルギー反応を起こす細胞の受容体にくっつくのをブロックします。その結果、花粉が体内に入ってもIgEが働けないためアレルギー反応自体を抑制できます 。もともとは気管支喘息(難治の重症喘息)や慢性蕁麻疹の治療薬として開発・使用されてきましたが、2019年末から「既存治療で症状コントロール不十分な重症花粉症」への保険適用が認められました 。いわば“飛び道具”的な最新治療で、従来の薬では太刀打ちできないような超重症のスギ花粉症患者さんに福音をもたらしています 。
効果の持続期間
ゾレアは効果を維持するために反復投与が必要です。通常2週間に1回または4週間に1回の皮下注射を続けることでシーズン中の症状を抑えます 。投与間隔と1回の薬用量は患者さんの血中IgE値や体重によって決定されます。症状の出る時期に合わせて投与開始し、花粉シーズンの間2〜4週間ごとに打ち続け、シーズン終了時に中止します。効果は注射を継続している間持続しますが、やめると数ヶ月で体内の抗体が減少しIgEが元に戻るため、毎年シーズン前からシーズン中にかけて繰り返し治療を受ける必要があります。
副作用
主な副作用は注射部位の赤みや腫れ(局所反応)です。これはそれほど心配いりませんが、ごく稀に全身性のアレルギー反応(アナフィラキシー)が起こる報告があります。そのため初回投与時などは医療機関で一定時間経過観察することが推奨されています。万一呼吸困難や血圧低下、蕁麻疹などショック症状が出た場合は速やかに医師が対処します。その他、頭痛やめまいなど軽微な副反応が報告されることもありますが、総じて安全性の高い治療です。長年使われてきた喘息患者さん向けのデータでも大きな問題は確認されていません。
費用
抗IgE抗体治療は非常に高価な薬を使うため、費用も高額です。ただし重症花粉症へのゾレアは保険適用となっており、自己負担は3割(もしくは1割/2割の方も)です。それでも1ヶ月あたり約4,000〜52,500円(自己負担3割の場合)と幅があります。費用に大きな幅があるのは、人によって必要な投与量・頻度が異なるからです。血中IgEが高く体重が重い患者さんほど高用量が必要で費用が高くなります。具体的には、年間で自己負担数万円〜数十万円かかるケースが多く、経済的負担は無視できません。
この治療が向いている人
すべての治療を試してもなお症状が抑えられないような最重症の花粉症患者が対象です。例えば一日中鼻が詰まって口でしか息ができない、くしゃみや鼻水が止まらず生活に著しい支障が出ているといったレベルで、かつ通常の内服薬・点鼻薬でも効果不十分なケースです 。そうした患者さんに限り、耳鼻科専門医・アレルギー専門医の判断でゾレアが検討されます。適応となるかどうかは医師が血液検査(総IgE値など)や症状の重さを確認して決めます。したがってまず一般的な治療でコントロール困難な重症患者向けの“最後の砦”と考えてください。
経済面の負担や通院頻度も多いため、費用負担に納得し定期通院できる方でないと難しいです。しかし効果は非常に高く、従来は手の打ちようがなかった重度の症状が和らぐケースも報告されています。「どうしても花粉症のひどい症状を何とかしたい」という方には、専門医に相談する価値のある最新治療です。
ゾレアについて詳しくは、以下のリンクをご参照ください
ステロイド注射 (※非推奨の治療法)
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仕組みと効果
副腎皮質ステロイド(ケナコルト®など)を筋肉注射し、強力な抗炎症作用で花粉症のつらい症状を抑え込みます 。1回注射すれば約2〜3か月効果が持続し、極端な言い方をすれば「1回の注射でそのシーズンの花粉症を和らげる」ほどの即効性・持続性があります。 -
効果の持続期間
前述のように1回で数か月効果が続き、花粉飛散シーズン全体を乗り切れることもあります。追加注射は基本的に不要ですが、効果が切れて再度注射する場合、年間で繰り返し受けるとステロイド総量が多くなります。 -
副作用
全身に強く作用する分、副作用リスクも非常に高い治療です。感染症へのかかりやすさ、胃潰瘍など消化管の障害、血糖値上昇による糖尿病、血圧上昇、白内障・緑内障の悪化、ホルモンバランスの乱れ(月経不順など)など様々な重大な副作用が報告されています。長期に繰り返すと顔が丸くむくむ「ムーンフェイス(満月様顔貌)」が現れることもあります。重症な副作用が起これば感染症の誘発、骨粗しょう症、消化性潰瘍、血栓症など生活に支障が出る恐れもあります。こうしたリスクから、日本の鼻アレルギー治療ガイドラインでは重症度に関わらず花粉症治療にステロイド注射は推奨されていません。特に糖尿病や高血圧、感染症にかかっている方、眼の疾患がある方では症状悪化の恐れがあるため受けられません。 -
費用
花粉症に対するステロイド筋注は健康保険適用外(自由診療)です。医療機関にもよりますが1回あたり約5,000円~10000円の自己負担費用となることが多いようです。全額自己負担になります。 -
この治療が向いている人
基本的には積極的には推奨されない治療法です。即効性があり飲み薬が効かない場合など「最後の手段」として用いられるケースもありますが、リスクと引き換えになります。他の治療が全く効かず日常生活が成り立たないような重症者で、かつ副作用リスクについて十分理解し、それでも希望する場合に限られるでしょう。妊娠中の方や持病がある方にはまず選択されません。
ヒスタグロビン注射
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仕組みと特徴
ヒスタグロビン注射は「非特異的減感作療法」と呼ばれる方法で、花粉症を含む様々なアレルギー症状全般の体質改善を目指す治療です。人の献血から採取された免疫グロブリン(抗体成分)にヒスタミンを結合させて作られたバイオ医薬品で 、アレルゲン免疫療法のように特定の花粉だけを対象にするのではなく幅広いアレルギーに効果があります。投与されたヒスタミン-グロブリン複合体が体内で抗ヒスタミン作用を示し、アレルギー反応を起こしにくい状態へ免疫系を調整すると考えられています。難しい言葉で言えば「アレルギー体質そのものを改善する根本治療」ですが、仕組みの詳細は完全には解明されていません。なおステロイド注射とは異なり副作用が極めて少ないのも特徴です。 -
効果の持続期間
効果発現まで少し時間がかかります。週1〜2回の頻度で3週間継続して注射(1クール6回が基本)し、その終了後1か月ほどで効果が現れてくることが多いです 。効果が出始めれば2〜3か月程度持続すると言われています。そのためスギ花粉症なら飛散開始の1か月前(1月頃)から接種を始めると効果的です。1クール終了後に効果不十分であれば薬液量を増やしてもう1クール追加することもあります。症状が落ち着いた後も効果維持のため2〜3か月ごとに定期的に注射を続けることが可能で、通年性のアレルギー性鼻炎の方では数ヶ月おきに接種して症状を抑えるケースもあります。 -
副作用
重篤な副作用はほとんど報告されていません。ごく稀に蕁麻疹などの発疹、一時的な鼻づまり悪化、かゆみ、咳といった症状が出る場合がありますが、その頻度は0.1〜5%未満とされています 。過去にヒスタグロビン注射でアナフィラキシー様のショックを起こしたことがある方は再度接種できませんが、基本的に安全性の高い治療です。※ただし生ワクチン(麻疹風疹など)との接種間隔には注意が必要です。ヒスタグロビン注射後は3〜4か月空けてから生ワクチンを接種し、生ワクチン接種後も2週間ほどヒスタグロビンを避ける決まりがあります(ヒスタグロビンがワクチン効果を妨げる可能性があるため)。 -
費用
ヒスタグロビン注射は健康保険が適用される治療です。自己負担3割の場合、初診時1回あたり約1,200〜1,500円、再診時は1回600円程度の費用で受けられます。基本は6回1クールなので、1クール(6回)合計でも自己負担は約4,000円程度です。保険診療内で比較的安価に行えるのも利点です。 -
この治療が向いている人
スギ花粉症に限らず複数のアレルゲンに悩んでいる方に適しています。たとえば花粉症だけでなく気管支喘息やダニ・ハウスダストアレルギー、アトピー性皮膚炎もあるような方は、ヒスタグロビンでアレルギー体質全般の改善効果が期待できます。また市販薬や内服薬だけでは症状が十分改善しない中等症以上の方で、「体質から変えたい」「根本的に治したい」という意欲がある場合に選択肢となります。週1〜2回ペースで数週間通院する必要があるため、その期間きちんと通院できる人が対象です。(逆に多忙などで通院継続が難しい人には向きません。)ステロイドのような強力さはありませんが副作用の少なさと体質改善効果が魅力の治療と言えます。
ノイロトロピン注射
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仕組みと特徴
ノイロトロピン注射は、生物由来のエキスを使った注射用の医薬品です。具体的には、ワクシニアウイルス(種痘ワクチンウイルス)を接種したウサギの炎症皮膚組織から抽出したエキスを有効成分としています。もともとは痛みを抑える鎮痛薬や血行改善薬として整形外科領域で腰痛・神経痛などに使われてきましたが、アレルギーへの抗ヒスタミン・抗アレルギー作用も持つことが判明し、花粉症などアレルギー性鼻炎の症状改善にも効果を発揮します。自律神経のバランスを整えて鼻水やくしゃみ反射を和らげ、アレルギー物質をまき散らす細胞(好酸球)が増えるのを抑える作用があるため、鼻水・鼻づまり・くしゃみの3大症状すべてに有効とされています。即効性はややマイルドですが、現在服用中の薬と作用機序が異なるため併用も可能で、薬だけでは効果が不十分な場合の追加治療として役立ちます。 -
効果の持続期間
ノイロトロピンは単発で劇的に効くタイプではなく、一定期間継続して投与して効果をみる治療です。通常、1〜3日に1回(週1〜2回程度)の頻度で、最大6週間連続して注射します。メーカーの定める用法では「1日1回1管を注射」となっていますが、必ずしも毎日通う必要はなく、多くは週に1〜2回のペースで計6回ほど行うのが一般的です。2週間ほど続けても効果が見られない場合は中止し、それ以上は無理に続けません。逆に効果が感じられれば症状のあるシーズン中は続け、症状がおさまれば終了します。効果が出ればそのシーズンの花粉症症状をかなり軽減できることが多いです。ある臨床試験データでは、特に「くしゃみ」が約8割の患者で改善したとの報告もあります。 -
副作用
体への負担は小さい薬剤ですが、人によっては眠気、ほてり(顔の火照り)、吐き気などが現れることがあります。注射薬なので注射部位が赤く腫れたりかゆくなったりといった局所反応が出る場合もあります。極めてまれに重篤なアレルギー反応(アナフィラキシーショック)が起こる可能性もゼロではありません。特に製造過程で鶏卵由来成分や牛乳由来成分を使っているため、食物アレルギー(卵・牛乳)のある方は事前に医師に伝える必要があります。しかし実際には大半の方で問題なく使用できており、依存性も少ない安全な注射とされています
最新の研究動向と新しい治療
花粉症治療は年々進歩しており、新しいアプローチが研究されています。抗IgE抗体(ゾレア)による治療開始(2019年保険適用)もその一例で、従来は対症療法が中心だった花粉症に生物学的製剤が使われ始めたことは大きなトピックです 。さらに近年では「アレルギーワクチン」とも呼ばれる新技術の研究も進んでいます。例えば体内で抗IgE抗体を作らせるペプチドワクチンの開発が進行中で、2025年には花粉症患者を対象に臨床試験が開始される予定です。このワクチンは花粉飛散前に接種し、患者さん自身の体内で抗IgE抗体を一定期間産生させることでアレルギー反応を抑え込む狙いがあります 。実現すればゾレアのような効果をより長期間持続させる根本治療になりうると期待されています。
また、新たな減感作療法(アレルゲン免疫療法)の研究も盛んです。従来の皮下・舌下免疫療法を改良し、より短期間で根治に近い効果を出せないかというプロジェクトが進められています 。たとえばスギ花粉の主要アレルゲンタンパク質を加工して安全性を高めた新しいワクチンや、免疫反応をコントロールする分子(サイトカイン)を標的とした抗IL-5抗体・抗IL-4受容体抗体等の次世代生物学的製剤も、将来花粉症に応用される可能性があります。現在は喘息治療などで使われている薬ですが、重症のアレルギー性鼻炎への効果も研究中です。