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小児の滲出性中耳炎について

滲出性中耳炎とは?

滲出性中耳炎は、鼓膜(こまく)の奥にある中耳(ちゅうじ)という部屋に水が溜まってしまい、鼓膜の振動が悪くなって聞こえにくくなる病気です。

子どもの難聴の原因として多い病気ですが(就学前に90%の小児が一度は罹患するといわれています)、急性の炎症がないため無症状で気づかれないことも多く、そのままにしておくと難聴による言語や学習への影響、鼓膜の変化が残ることもあります。たとえば急性中耳炎(耳の風邪とおもってください)が起こると、中耳に膿交じりの液体が溜まります。通常は溜まった液体は自然に吸収されたり、耳管(じかん)を通して鼻の方に抜けていったりします。

滲出性中耳炎の原因

耳は大きく外耳、中耳、内耳に分けられます。耳の奥にある鼓膜の内側には空気が入った中耳とよばれる空間があり、耳管という管で鼻とつながっています。また、中耳の周りには乳突蜂巣という空間があり、耳管とともに中耳を換気する働きがあります。

・急性中耳炎
・のどや鼻の病気:風邪、副鼻腔炎(ちくのう症)、アレルギー性鼻炎、アデノイド
・そのほか:逆流性食道炎など

上記のような原因によって、中耳の炎症が起こると、中耳の圧力が下がり滲出液がたまるようになります。

耳管や乳突蜂巣の状態が良ければ、中耳に溜まった滲出液は自然に良くなりますが、そうでない場合はずっと溜まったままになってしまい、その状態を『滲出性中耳炎』といいます。

「耳の奥に水が溜まる」と聞くと、耳の穴から水や細菌が入っていくイメージがあると思いますが、実際には耳の穴には鼓膜があるので外からの水は中耳にはたどり着けません。

ですから、滲出性中耳炎は耳から細菌が入ることで発症するのではなく、鼻やのどの病気が原因で発症するのです。特に子どもの滲出性中耳炎の大部分は鼻が悪いことにありますので、鼻をしっかり治療することがとても重要なのです。

滲出性中耳炎の経過

多くの場合は、正常な耳(左上)に急性中耳炎を発症し(左下)、ほとんどの場合は治りますが、一部で中耳に貯留した液体が抜けきれず、滲出性中耳炎(右上)を発症します。滲出性中耳炎も多くは自然経過や内服治療で改善しますが、一部改善しない場合があり、その場合は鼓膜チューブ留置(右下)という簡単な手術を行って、中耳に溜まった液体を排泄させやすくします。

滲出性中耳炎の症状

  • 耳閉感

    中耳に液体がたまると、耳がふさがった感じがします。耳がヘンだという違和感もあります。
    ガサガサやゴロゴロするといった症状にもあるので、意思を表現できない小さなお子様の場合は、耳を頻繁に触ったりするようになります。
  • 難聴

    中耳にたまった液体によって鼓膜の振動が悪くなり、音が十分に伝わらなくなるため、聞こえが悪くなります。乳幼児は自覚がしないのですが、小学生以上では聞こえの悪さを感じることがあります。聞き返しが多い、テレビの音が大きくなるなどにより周囲から気づかれることもあります。

滲出性中耳炎の検査

鼓膜所見

  1. 急性期(急性中耳炎)
    鼓膜は発赤、膨隆し、奥は海の貯留により白濁しています。
  2. 滲出性中耳炎
    鼓膜の発赤は消失しましたが、奥は黄色の貯留液が溜まっています。
      
    別な症例です。上記よりもう少し時間が経過した場合は、さらに透明な液体が貯留しています。
  3. 正常鼓膜
    黄色透明な所見は消失し、通常の鼓膜となりました。

聴力検査

聴力検査は骨を通して聞こえる音(骨導聴力 カギカッコ)と耳の穴を通して聞こえる音(気導聴力 実線と点線)の二つを測定します。

滲出性中耳炎の典型例では、下図のように骨導聴力は正常ですが、気導聴力が低下する伝音難聴(聞こえの神経の問題ではなく、単純に音が伝わっていない難聴のこと)の形になります。

音が聞こえたらボタンを押す検査ですので、検査のやり方が理解できる小学生以上から施行可能です。

 

ティンパノメトリー

鼓膜の動きの検査です。

正常(左側)はゼロのところにきれいな山ができていますが、滲出性中耳炎(右)では山が全くできません。

この検査は未就学児でも可能です。

   

滲出性中耳炎の治療方法

原則的には、『小児滲出性ガイドライン』に沿って方針を検討します。小児の滲出性中耳炎は、難聴や鼓膜の高度な変化がなければ、発症から3か月は様子を見ることが勧められています。内服治療などで自然に治ることが多いからです。もちろん3か月以上経過しても、程度が軽ければ経過観察のみになることもあります。

  • 内服薬

    よく使われるのは、粘液溶解薬(カルボシステインなど)です。
    また、滲出性中耳炎では鼻副鼻腔炎や繰り返す急性中耳炎が原因の大多数ですので、鼻の治療はとても重要です。アレルギー性鼻炎や鼻副鼻腔炎がある場合は、同時に治療します。具体的には抗ヒスタミン薬(アレグラ、ザイザルなど)や鼻噴霧ステロイド(アラミストなど)に加えて、マクロライド系薬(クラリスロマイシン)とよばれる抗生物質を少量で長く飲む場合もあります。
  • 手術(鼓膜換気チューブ留置術、アデノイド切除術)

    鼓膜チューブ留置術
    3か月以上経過しても自然に治らない場合は、手術治療が必要になることもあります。具体的には鼓膜に小さな切開をして、チューブを留置します。チューブを入れることによって、中耳にたまっている液体を出しやすくして炎症を抑えます。効果はすぐに出ますので、聞こえが良くなることや鼓膜の病的な変化を予防する効果が期待されますが、鼓膜が固くなったり穴が残る、耳垂れが出る、感染するなどの問題点が起こることもあります。チューブ留置後は定期的な通院が必要になります。

    鼓膜チューブ留置術は、小児の場合は多くは全身麻酔で行われます(安静が保てないためです。成人の場合は外来で5分くらいで終わる比較的簡単に可能な手術です)
    抜去は比較的容易で、引っ張れば抜けてしまいますので外来で数秒で可能です。

    鼓膜チューブを入れておく期間は2年を目安とします。あまり長く入れておくと穴が残りやすいので放置されることはお勧めできません。
    アデノイド切除術
    アデノイドは鼻の奥に存在する扁桃腺のような組織のことです。子どもの場合は、もともと大きいため慢性感染のもとになっていると考えられます。アデノイドのすぐそばに、耳管(耳と鼻をつないでいる管)の出口があるため、アデノイドが大きいと耳管がふさがれてしまい、滲出性中耳炎になってしまいます。
    手術ではアデノイドを切除(減量)します。この手術は、出血の危険性もあるため全身麻酔と入院が必要です。
  • 耳管通気

    鼻から耳に空気を送る治療もありますが、受診時だけ行ってもあまり効果がないと考えらえるので小児に対してはあまり行いません。

滲出性中耳炎の予防について

  • 子どもの滲出性中耳炎の多くは急性中耳炎をきっかけに病院で見つかります。急性中耳炎は、完全に治るまできちんと治療を続けることが重要です。
  • 子どもが滲出性中耳炎にかかりやすくなるきっかけとして、かぜ、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎などです。病院に通院することはもちろんですが、家庭で鼻みずを吸ってあげることもとても重要なことです。
  • 集団保育、家族の喫煙などは滲出性中耳炎が治りにくくなる原因と考えられています。
  • おしゃぶりは実はあまりよくありません。おしゃぶりを続けることで、のどや鼻の空間に陰圧を生じ、そのことが耳と鼻をつなぐ「耳管」の機能に悪影響を与えることが原因とされています。

鼻みずの吸引について

滲出性中耳炎の時にプールに入ってよいか?

耳や鼻の病気がある時にはプールはあまりよいものではありません。プールの消毒に含まれる塩素によって鼻の粘膜が腫れてしまったり、鼻をすすってしまったりして中耳炎が悪化する原因になります。
しかし、滲出性中耳炎は治るまでに数か月間時間がかかることがあり、安定している状態で鼻もでていなければプールは問題ありません。
耳に水が入ってしまうこと自体は、中耳炎とは全く関係ないため悪影響はありません。あくまで鼻が悪くなってしまうかどうかが重要なのです。

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