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『がんウイルス療法』について 〜東大での研究〜

[2022.08.11]

医師8年目から4年間、東京大学医科学研究所の先端がん治療分野という研究室で『ウイルス療法』の研究をさせていただきました。

ウイルス療法(oncolytic virus therapy)とは、ウイルスを使って、腫瘍細胞(がん細胞)を破壊する新しい治療法です。ウイルスの遺伝子を操作して、がん細胞のみで増殖するウイルスを人工的につくり、腫瘍内に投与して感染させ、ウイルスにがん細胞を攻撃させるのです。体内で増殖したウイルスは、さらに周囲に散らばって次々とがん細胞に感染し、増殖と破壊を繰り返して、がん細胞を死滅させていきます。ウイルスが直接腫瘍細胞を殺すことに加え、腫瘍細胞に対する抗腫瘍免疫(ワクチン効果)も引き起こすことも期待されています。

 

このウイルス療法薬の優れている点は、正常細胞に感染しても増殖できないしくみを備えていることです。そのため、正常組織を傷つけることはありません。つまり、従来のがん治療のような強い副作用や後遺症が起こる心配がないのです。

先端がん治療分野では、藤堂教授らが作成したG47δ(一般名=テセルパツレブ)という遺伝子改変ヘルペスウイルスを用いたウイルス療法が、悪性神経膠腫(悪性度の高い脳腫瘍)に対して研究されていました。

私は、自分の専門分野であった頭頸部がん(舌がん、咽頭がん、喉頭がんなど首にできる癌の総称。主に耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が専門で扱います)に対しての応用を目的に研究しておりました。研究室には私以外にも、食道癌、大腸癌、肺癌、肝臓癌の専門家が在籍しており、それぞれの分野での応用を目指して日々研究し切磋琢磨しておりました。

(頭頸部がんとは首から上の眼と脳以外の部分にできるがんの総称です)

研究がメインの日々でしたが、臨床医としての実力を落とすわけにはいきませんので、週2日は大学病院及びクリニックでの診療を続けており、東京と栃木県の行き来もしていたので非常に多忙な日々を過ごしておりました。

 

G47δは2021年に悪性神経膠腫の治療として承認されました。2000年頃から研究を続けてこられ、なんとしても日本発の治療法を、と続けて来られた藤堂教授はじめ研究室の方々の努力の賜物といえます。頭頸部癌は近年の抗がん剤、放射線治療の発展で少しずつ生命予後は改善してきておりますが、発生する部位の特性上、治癒したとしても発声障害、味覚障害、唾液分泌障害などの様々な後遺障害が残ってしまいがちです。また、進行癌においてはまだまだ予後不良で有効な治療オプションが少ない状況です。いつかはウイルス療法が難治な頭頸部癌の患者様に対しても使用可能となることを切望しております。

 

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