耳が痛い
耳の痛み(耳痛)は日常診療でよく見られる症状ですが、その原因は多岐にわたります。
耳が痛むと「中耳炎かな?」と耳自体の病気を疑う方が多いものの、実は耳以外の場所の病気が原因で起こる関連痛も少なくありません。
特に耳鼻科の診察で耳に異常がない場合は、あご(顎関節)や歯、のどの病気、さらには神経の痛み(神経痛)の可能性があります。
耳の痛みの原因と分類
耳が痛む原因は大きく2つに分類できます
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耳そのものに原因がある場合(耳性耳痛): 外耳・中耳など耳自体の病気による痛み。例: 中耳炎、外耳炎 など
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耳以外に原因がある場合(非耳性耳痛・関連痛): 耳の神経が関与する周囲の部位の病気による痛み(いわゆる「もらい痛み」)。例: 顎関節症、歯の疾患、のどの炎症や腫瘍、神経痛 など
耳そのものが原因の場合(耳性耳痛)
耳自体に問題がある場合、痛みの多くは外耳または中耳の炎症(感染症)によって起こります。急に発症した耳の痛み(急性耳痛)の最も一般的な原因は以下の3つです:
中耳の感染症(急性中耳炎)
鼓膜の奥にある中耳が細菌やウイルスで感染し炎症を起こした状態です。とくに小児に多く、しばしば風邪症状に続いて発症します。中耳炎になると鼓膜の奥に膿や液体がたまって圧力が高まり、強い痛みを感じます。鼓膜が赤く腫れて膨らみ、発熱を伴うこともあります。重い場合は鼓膜が破れて耳だれ(耳から膿や血液が出る)が生じることもあります。
急性中耳炎は小児の耳痛原因として最も多いものの一つです。
外耳の感染症(急性外耳炎)
耳の穴から鼓膜までの外耳道の皮膚が感染した状態です。大人の耳痛原因として頻度が高く、水泳のあと耳に水が残ったり、綿棒などで耳掃除をしすぎて皮膚を傷つけたりすることで起こりやすいです。症状としては耳の入口付近を触ると痛む、耳がふさがった感じ、かゆみや悪臭のある耳だれを伴うことがあります。
外耳炎は耳かきや水泳などで耳に入った水が原因で細菌が繁殖して起こります。
突然の気圧変化(航空性中耳炎・耳の圧外傷)
飛行機の離着陸や高所・潜水(スキューバダイビング)などで周囲の気圧が急激に変化すると、中耳と外気圧の差によって鼓膜が内外に大きく動かされて痛みが生じます。通常、中耳は耳管を通じて外界と空気が通じ圧力を調整していますが、鼻が詰まって耳管がうまく機能しないと気圧差が解消できず耳が強く痛むのです。ひどい場合には鼓膜出血や鼓膜の破裂を起こすこともあります。
これを防ぐには、飛行機搭乗中に唾を飲み込んだりあくびをしたりして耳管を開通させ、圧力を調整すること(耳抜き)が有効です。ガムを噛んだり飴を舐めるのも効果的です。
上記以外にも耳そのものが原因で痛みを生じるケースがあります。例えば、
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鼓膜炎 – 鼓膜自体が感染して炎症を起こすこともあり、激しい痛みを伴います。鼓膜表面に水疱ができる水疱性鼓膜炎では強い耳痛を生じます。
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耳帯状疱疹 – 水痘・帯状疱疹ウイルスが耳の神経に感染することで起こり、耳やその周囲に激しい痛みをもたらします。耳介や外耳道に水ぶくれ(水疱)ができ、顔面神経麻痺(顔の片側が動かない)や難聴・めまいを伴うことがあり(ラムゼイハント症候群)、この場合は早急な治療が必要です。
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耳の外傷・異物 – 耳へのケガ(例:耳を強打する、爆音による鼓膜損傷)や、耳に異物が入った場合も痛みが起こります。特に耳かきや綿棒で耳掃除をしようとして耳の中を傷つけてしまうケースがよく見られます。耳に入った異物(虫、小さなおもちゃ、綿棒の先端など)は小児に多く、放置すると炎症を起こして痛みや耳だれの原因となるため、無理に取ろうとせず耳鼻科で取り除いてもらう必要があります。
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腫瘍 – 稀ですが、外耳道や中耳の腫瘍が痛みの原因となることがあります。良性の腫瘍でも大きくなると痛みや聞こえの悪さを生じますし、悪性腫瘍(がん)の場合は難治性の耳の痛みや耳だれがみられることがあります。慢性的な耳の痛みが治療に反応しない場合、腫瘍の鑑別のため専門医受診が推奨されます
耳以外に原因がある場合(関連痛)
耳以外の病気によって耳に感じる痛みを関連痛(非耳性耳痛とも言います)と呼びます。耳の感覚を司る神経は複雑で、三叉神経・顔面神経・舌咽神経・迷走神経および頸神経の一部(第二・第三頸神経)などが関与します。
これらの神経は耳だけでなく顔面、顎、歯、舌、扁桃、咽頭、喉頭、気管、食道、さらには首の筋や心臓・肺・腹部の臓器にまで分布しているため、それらの部位の痛みが耳に放散することがあります。
関連痛の原因で代表的なものとして、顎関節の病気、歯・歯ぐきの病気、のどの病気、そして神経痛が挙げられます。
顎関節症による耳の痛み
顎関節症とは、耳のすぐ前にある顎関節の不具合で生じる一連の症状の総称です。主な症状はあごの痛みや口の開閉時の関節音、開口障害などですが、これに伴って耳の奥や周囲に痛みを感じることがあります。
顎関節と耳は解剖学的に近接しているうえ、顎関節を支配する三叉神経の下顎神経(V3)の枝が外耳道や鼓膜の一部も支配しているため、顎関節の痛みが耳へ放散しやすいのです。
顎関節症による耳痛の特徴は、噛む・あくびをするなどあごを動かしたときに痛みが悪化することです。耳の中を診ても炎症は無く鼓膜も正常ですが、顎関節を触ると圧痛があったり、口を開閉するときに「カクッ」という音や引っかかりを感じます。若い世代から中高年まで幅広くみられますが、歯ぎしりや食いしばりの癖、ストレス、歯並びの不良などが誘因になります。
歯の病気(歯原性疾患)による耳の痛み
虫歯や歯周病など歯や歯ぐきの病気が原因で、耳の痛みが起こることがあります。特に奥歯の痛みはしばしば耳の奥の痛みと感じられることがあり、実際には重度の虫歯による歯髄炎や歯根の膿だったというケースも少なくありません。
智歯周囲炎(親知らずの炎症)でも顎の痛みとともに耳周囲の痛みを訴えることがあります。これらは下顎の歯を支配する三叉神経(下歯槽神経)の痛みが耳に放散するために生じます。
歯が原因の関連痛では、物を噛んだときに痛む歯がある、冷たいものが歯にしみる、歯ぐきが腫れているといった歯科症状が隠れていないか確認することが大切です。耳に異常がないのに片側の耳奥の痛みが続く場合、まず歯科検診で虫歯や歯周疾患の有無を調べることが勧められます。実際、成人の関連痛の原因として歯の痛みは非常に一般的で、ある調査では関連痛全体の約6割が歯原性だったとの報告もあります。
のどの病気(咽頭疾患)による耳の痛み
喉や首の病気が原因で耳が痛むこともあります。代表的なのは咽頭炎や扁桃炎といった喉の炎症です。例えば、急性扁桃炎では喉の強い痛みや発熱が主症状ですが、しばしば片側の耳まで痛みが放散します。これは扁桃周囲や喉(上咽頭・中咽頭)の知覚を担う舌咽神経や迷走神経が、中耳や外耳道の一部も支配しているためです。
嚥下時に耳がキーンと痛むような場合、喉の炎症を伴っていないか確認します。小児では中耳炎と並んで扁桃炎や咽頭炎が耳痛の原因として多い傾向があります。
また、扁桃周囲膿瘍でも、激しい喉の痛みとともに同側の耳に響くような痛みが起こります。さらに喉より下の喉頭炎や声帯の炎症、頸部のリンパ節炎でも、反射的に耳が痛く感じられることがあります。これらの場合、通常は喉の症状(痛み・腫れ)や発熱など全身状態の悪化があるため比較的原因に思い当たりやすいでしょう。
一方で注意すべきは、咽頭癌・喉頭癌など喉の深部の腫瘍性疾患です。これら頭頸部の悪性腫瘍は初期には痛み以外の自覚症状が乏しい場合がありますが、ある日突然片方の耳が痛み出し、しかし耳鼻科で耳自体は正常というケースでは、のどの奥にできた腫瘍が関連痛を起こしている可能性があります。特に片側の慢性的な耳痛で、飲み込むと耳に響くような痛みが続く場合、高齢者や喫煙者では念のため喉の精密検査(内視鏡検査など)を受けることが望まれます。
神経痛による耳の痛み
耳痛の原因として見落とされやすいものの一つに神経痛があります。神経痛とは、特定の末梢神経の走行に沿って起こる激しい痛みの発作を指す医学用語です。「末梢神経の分布領域に一致した部位に、発作的(突然で反復性)に、数秒から数分程度の短い激痛が繰り返し起こる」ことが神経痛の典型的な特徴です。
痛みは電気が走るような鋭い痛み(電撃痛)で、中年以降に発症しやすい傾向があります。痛みがない間は患部に異常がなく、触っても痛くないのに、何かの拍子に突然「激痛発作」が走る点がポイントです。
耳の感覚に関与する主な脳神経である三叉神経・顔面神経・舌咽神経・迷走神経の経路で生じる神経痛は、それぞれ痛みの出る場所や誘因が異なりますが、耳の奥や周囲に激痛を生じ得ます。
舌咽神経痛
舌咽神経痛は舌咽神経および迷走神経の支配領域に発生する激しい神経痛発作です。非常にまれな疾患で、患者数は三叉神経痛の50分の1程度とも言われ、中高年以降(40歳以上)で発症することが多く、やや男性に多い傾向があります。
舌咽神経は喉の奥(中咽頭・下咽頭)や舌の後方1/3、さらに外耳道や鼓膜の一部の知覚を担っています。そのため、この神経が障害されると喉の奥から耳にかけて鋭い痛みが走ります。
舌咽神経痛では片側の喉から耳にかけての激しい痛みの発作が繰り返し起こります。痛みは電撃的で「刺すような」「焼けつくような」性質と表現され、1回の発作は通常数秒〜数分と短時間ですが、1日に何度も生じることがあります。痛みの起点は多くの場合扁桃周囲や舌の付け根(舌根)で、そこから同じ側の耳の奥にビリッと広がります。
多くのケースで明らかな原因病変は見当たりませんが、脳幹から出た舌咽神経が近くの動脈に圧迫されていることが原因と推測されています。これは三叉神経痛や顔面けいれんと同様のメカニズムで、長年の動脈硬化などで蛇行した血管が神経に当たることで神経の絶縁が障害され「ショート」して痛み信号が生じると考えられます。
まれな原因として、延長した茎状突起(イーグル症候群)や、舌扁桃(ぜつへんとう)の肥大、咽頭部の腫瘍などが神経を圧迫して起こる場合も報告されています。
三叉神経痛
三叉神経痛は三叉神経の分布領域に生じる神経痛発作で、「この世で感じる最も激しい痛み」とも称されるほどの顔面痛発作を起こす疾患です。中高年以降の女性にやや多く、舌咽神経痛より頻度は高い(舌咽神経痛の50倍程度の患者数)とされます。三叉神経は3本の枝(眼神経V1・上顎神経V2・下顎神経V3)に分かれ、顔の広範囲の感覚(額から目、頬から上顎、下顎から舌の前方2/3・歯茎など)を担っています。三叉神経痛の痛みは通常顔の片側のいずれかの領域に出現し、特に上顎神経(頬~上唇)または下顎神経(下唇~顎先、歯茎)の領域に多くみられます。下顎神経の枝は外耳道や顎関節も一部支配するため、痛みが下顎から耳のあたりにかけて走ることもあります。
顔面の片側に発作的な激痛が走ります。痛みは「電気が走るような」「焼け付くような」激烈なもので、瞬間的(数秒程度)にピークに達し、その後数十秒~数分で治まります。ただし一日に何度も発作が起きることがあり、重症例では1日に何十回も顔をしかめるような痛みを繰り返します。
誘発のきっかけとして、洗顔・歯磨き・会話・食事・髭剃り・化粧で顔に触れる・風が当たるなど、ちょっと顔に刺激が加わるだけで発作が誘発されることが多いです。患者さんによっては「ここを触ると必ず痛みが走る」という点(トリガーポイント)が顔面や口腔粘膜に存在します。例えば鼻のわきや上唇、歯肉の特定の場所に触れると決まって発作が起きる、といった具合です。このため発作が起きるのを恐れて顔を洗えない、歯磨きできない、食事に時間がかかる、といった日常生活への支障が生じます。痛みがない間は顔面の感覚異常や麻痺はなく、神経学的には正常です。
舌咽神経痛と同様に、脳内での三叉神経根への血管圧迫が主な原因と考えられています。長年の動脈硬化で蛇行した脳底動脈や上小脳動脈が三叉神経に当たり、髄鞘(神経の被膜)が傷んで異常発火するという説です。ただし画像上で血管圧迫が明確でない場合や、血管以外の要因(神経の走行のゆがみ、硬膜との癒着など)が推測される例もあり、完全には解明されていません。糖尿病や多発性硬化症など全身疾患に合併することもあります(特に若年発症の場合、多発性硬化症の一症状として三叉神経痛が出ることがあります)。またごく一部は歯の抜歯や顔面の外傷を契機に発症する例も報告されています。この場合、末梢神経の損傷後に起こる難治性の神経障害性疼痛と位置付けられます。
耳が痛いときの対処法
安静と鎮痛剤の使用
耳の痛みがあるときは、まず無理をせず安静にしましょう。痛みが強い場合は鎮痛薬(解熱鎮痛剤)を使用すると効果的です。アセトアミノフェン(例:カロナール、タイレノール)やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬:例:イブプロフェン、ロキソプロフェン)は耳痛の緩和に有用で、抗生物質の使用有無にかかわらず早期から痛みを和らげるために用いることが推奨されています。
耳を清潔に保ち異物を入れない
耳が痛むときは耳をいじらないことが大切です。綿棒や指を耳に入れて刺激すると、かえって外耳道を傷つけ炎症を悪化させる恐れがあります。耳だれが出ている場合も、耳の周りを清潔なガーゼで拭く程度にとどめ、奥に綿棒を突っ込まないでください。
中耳炎が疑われる場合
風邪をひいた後に耳が痛み出しているような場合は中耳炎が考えられます。小さな子どもでは耳をしきりに触ったり機嫌が悪くなったりといったサインが見られるでしょう。
中耳炎が疑われる場合、先述の鎮痛剤で痛みを和らげつつできるだけ早めに耳鼻科を受診してください。抗生物質が必要かどうかの判断や、鼓膜切開(膿を出す処置)が必要なケースもあります。耳だれが出て枕などを汚す場合は清潔なガーゼをあてておきましょう。なお、軽度の中耳炎では抗生物質なしで自然に治ることもあります。
外耳炎が疑われる場合
耳の穴の入口を押すと痛い、水泳のあとから痛み出した、といった場合は外耳炎(スイマーズイヤー)かもしれません。この場合も耳鼻科受診が望ましいですが、受診までにできることとして耳を乾燥させ清潔に保つことが挙げられます。耳に水が入っている場合は、痛くない範囲で頭を傾けて水を出し、柔らかいタオルで耳の周りを優しく拭いてください。ドライヤーの弱冷風を当てて乾かすのも有効です。市販の点耳薬は先述のように鼓膜穿孔がない確証が持てない場合は避け、痛みが強ければ鎮痛薬を服用します。外耳炎が進行すると耳道が腫れて膿が溜まることもあり、抗菌薬の点耳薬や耳内の洗浄処置が必要になります。
原因に応じたその他の対処
上記以外の場合も、原因に応じた対応が必要です。例えば飛行機や高地で耳が痛くなった場合は前述したように耳抜きを試みます。顎関節症が原因であれば硬いものを避け顎を安静に保つことが大事です。歯の痛みがあって耳も痛むならば歯科を受診し、虫歯や親知らずの治療が結果的に耳痛の解消につながります。
受診の目安:医師に相談すべきケース
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高熱を伴う激しい耳痛: 38℃以上の発熱や耐え難い痛みがある場合、中耳炎の重症化や乳様突起炎(耳の奥の骨の感染)などの可能性があります。特に小児でぐったりしている場合は早急に受診しましょう。
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耳だれ(耳からの分泌物)がある: 鼓膜が破れるほどの中耳炎や外耳炎で膿が出ている可能性があります。耳だれが黄緑色や血液混じりの場合は感染症が強いサインですので、できるだけ早く耳鼻科を受診してください。
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耳の後ろの腫れ・発赤: 耳の後ろの骨(乳様突起)あたりが赤く腫れて押すと痛む場合、乳様突起炎の疑いがあります。これは中耳炎が周囲に波及した重い感染症で、入院治療が必要になることもあるため緊急性が高い症状です。
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外耳道の強い腫れ: 耳の穴の入口が腫れて塞がるほどになっている場合は、重度の外耳炎や外傷による血腫が考えられます。放置すると痛みが増すだけでなく聴力障害の原因にもなります。
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顔面麻痺やめまいを伴う耳痛: 耳の痛みに加えて片側の顔の筋肉が動かない(顔が垂れる)、あるいは激しいめまいや難聴がある場合、**耳帯状疱疹(ラムゼイハント症候群)**など内耳や神経にまで及ぶ病気が疑われます。このような症状は緊急の治療が必要です。
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慢性的な耳痛と他の症状: 2週間以上持続する耳の痛みがあり、さらに声がれ・嚥下困難(飲み込みにくい)・鼻づまり・首のしこりなど頭頸部の症状を伴う場合、喉や鼻の奥の腫瘍の可能性があります。特に50代以上で喫煙・飲酒歴のある方は注意が必要で、早めに耳鼻咽喉科で精密検査を受けてください。



