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蓄膿症(慢性副鼻腔炎)でやってはいけないこと

[2025.06.10]

蓄膿症(副鼻腔炎)とは?原因と症状の解説

蓄膿症とは、医学的には副鼻腔炎といい、鼻の周囲にある空洞「副鼻腔(ふくびくう)」で炎症が長期間続いて膿(うみ)がたまる状態を指します。

副鼻腔は額や頬の奥などにある4対の空洞で、通常は空気で満たされています。風邪などでウイルスや細菌が鼻粘膜に感染・炎症を起こすと、鼻腔とつながった副鼻腔にも炎症が及びます。

通常、急性副鼻腔炎(いわゆる鼻の奥の急性炎症)は自然に治癒したり抗菌薬で比較的短期間で治ります。しかし炎症が長引いて副鼻腔内の膿の排出機能が低下し、粘膜が腫れて副鼻腔の出口をふさいでしまうと、炎症が治りにくくなる悪循環に陥ります。この状態が慢性化したものが蓄膿症(慢性副鼻腔炎)です。一般に症状が約3か月(12週間)以上続く場合に慢性副鼻腔炎と定義されてます。

慢性副鼻腔炎を引き起こす原因は一つではなく、複合的(多因子)です。もともとは風邪などによる鼻の細菌・ウイルス感染がきっかけですが、アレルギー性鼻炎(ハウスダストや花粉)や喘息のある方では炎症が長引きやすく慢性化のリスクが高まります。鼻の中の構造的な問題(例えば鼻中隔弯曲症[びちゅうかくわんきょくしょう:鼻の仕切りのゆがみ]や鼻茸[はなたけ:ポリープのこと]の発生)も炎症を悪化させる要因です。

また、喫煙者はタバコの煙で鼻粘膜の防御機能が弱まり細菌感染を起こしやすいため、副鼻腔炎になりやすく治りにくい傾向があります。

上の奥歯の虫歯が上顎洞(じょうがくどう:頬の空洞)に波及して副鼻腔炎を起こす場合もあり、原因への対処が必要です。このように原因や悪化因子は様々ですが、適切な治療で炎症を鎮めることが可能です。

主な症状: 蓄膿症になると以下のような症状が現れます。

  • 鼻づまり(鼻閉): 鼻粘膜の腫れや膿によって鼻の通りが悪くなります。慢性期では粘膜の腫脹やポリープ形成で空気の通り道が狭まり、常に鼻が詰まった状態になります。

  • 鼻水・膿性鼻汁: 濃厚な鼻水が出ます。急性期には黄色〜緑色で匂いの強い膿が混じった鼻汁がよく見られますが、慢性期には白色で粘り気のある鼻水に変わります。透明でさらさらしたアレルギー性鼻炎の鼻水とは異なる性状です。

  • 後鼻漏: 鼻汁が喉の方へ流れ落ちる症状です。副鼻腔から膿が喉に滴り落ちることで常に喉に違和感があったり、痰が絡む・咳の原因になることがあります。慢性副鼻腔炎ではこの後鼻漏(こうびろう)が続き、口臭の原因になることもあります。

  • 痛み・圧迫感: 急性副鼻腔炎では頬や目の間、額に痛みや圧迫感、頭痛が起こることがあります。慢性副鼻腔炎では激しい痛みは少ないものの、額を中心とした重い頭痛(頭重感)や頬の違和感が長引くことがあります。炎症が悪化し眼の近くの副鼻腔に及ぶと、眼痛や視力低下をきたす場合もあり注意が必要です。

  • 嗅覚障害: 匂いを感じる鼻の奥の粘膜に炎症や腫れが及ぶため、匂いがわからなくなることがあります。慢性的な炎症で嗅覚神経がダメージを受けると治療後も匂いが戻りにくくなるため、早めの対処が大切です。

  • その他: 慢性副鼻腔炎では発熱はあまり高くなりませんが、慢性的な炎症によるだるさ(倦怠感)や集中力の低下を訴える方もいます。症状が数ヶ月以上続く場合や、風邪を引くたびに鼻の症状が悪化・長引く場合は蓄膿症を疑って耳鼻科を受診しましょう。

以上が蓄膿症の概要です。それでは、蓄膿症のときに日常生活で「やってはいけないこと」を具体的に見ていきます。間違った対処は症状を悪化させ慢性化させる原因になりますので、それぞれ理由と正しい対策を理解しましょう。

蓄膿症のときにやってはいけないこと

蓄膿症と診断された後はもちろん、「もしかして蓄膿症かも?」という症状が出ている段階でも、以下のような行動は避けましょう。症状の改善を妨げたり悪化させる恐れがある行動と、その理由・正しい対処法を解説します。

喫煙や飲酒

タバコやお酒は蓄膿症の症状を悪化させる原因になるため控えましょう。喫煙による有害物質は鼻の粘膜を直接刺激し、防御機能(線毛運動など)を低下させます。その結果、副鼻腔の炎症がさらに悪化しやすくなります。

実際、喫煙者では鼻粘膜が弱って細菌感染を起こしやすく、副鼻腔炎にかかりやすい傾向があります。電子タバコや受動喫煙(他人の煙)でも同様に粘膜に炎症を起こし、副鼻腔炎を治りにくくしてしまいます。

一方、飲酒も蓄膿症の際にはできるだけ控えることが賢明です。アルコールには血管拡張作用があり、鼻粘膜の血管が拡がると腫れが強くなって鼻づまりが悪化する恐れがあります。また、飲酒は睡眠の質を下げたり免疫機能を低下させたりするため、感染の治癒を遅らせる可能性も指摘されています。

特に夜にお酒を飲むと寝ている間の鼻づまりがひどくなり、十分な休息がとれなくなることがあります。

正しい対処

蓄膿症と闘う期間は禁煙・禁酒を心がけてください。タバコを止めることで鼻粘膜の回復が促され、治療効果も高まります。またお酒は症状が落ち着くまで控え、水分補給はアルコールではなく水やぬるま湯、ノンカフェインの温かい飲み物(生姜湯やハーブティーなど)で行うと良いでしょう。どうしても禁煙が難しい場合は医師に相談し禁煙補助薬の利用を検討してください。喫煙・飲酒を控えることで副鼻腔炎の治りが早くなり、再発予防にもつながります

鼻水をすすること(鼻すすり)

鼻水を「すすって」喉に流し込む癖がある方は、蓄膿症のとき絶対にやめましょう。鼻水には細菌やウイルス、ホコリなどの異物が含まれており、本来は体外に排出すべきものです。ところが、鼻をすするとこれらの病原体を含む分泌物が体内に逆流し、中耳や副鼻腔にまで入り込んでしまいます。その結果、症状の改善を妨げたり、中耳炎(耳の炎症)を引き起こす原因となります。

正しい対処

鼻水はすすらず、こまめにかんで外に出しましょう。かむ際は強く勢いよくではなく、片方の鼻孔ずつゆっくり優しくかむのがポイントです。両鼻を一度に力任せにかむと、鼻腔内の圧力で膿が耳管(じかん:中耳へ通じる管)に押し込まれ、中耳炎を起こす恐れがあります。優しく頻繁にかんで鼻腔内を清潔に保つことで、副鼻腔に膿が溜まりにくくなり症状改善につながります。

それでも鼻づまりが強くてうまくかめない時や、花粉・ハウスダストで鼻水が多い時には鼻うがい(鼻洗浄)もおすすめです。

食塩を溶かして生理食塩水(0.9%食塩水)を作り、人肌程度の温度(約40℃前後)に温めてから鼻腔内にゆっくり流し込みます。生理食塩水で洗えば鼻粘膜への刺激が少なく、粘りついた鼻汁や付着した花粉・ホコリを洗い流せます。

正しい方法で行えばツーンとした痛みもほとんどなく、薬を使わないので副作用の心配もありません。ドラッグストアで市販されている鼻洗浄キット(洗浄器具や食塩がセットになったもの)を利用すると手軽に鼻うがいができます。

鼻うがいは蓄膿症の症状緩和に有効で、毎日の鼻腔ケアとして取り入れると再発予防にも役立ちます

鼻を強くかみすぎる・鼻をほじること

鼻をすすらずきちんとかむのは大切ですが、強すぎる鼻かみは鼻内圧を急峻に高め、粘液が副鼻腔へ逆流しうることがヒト計測とCTで示されています(平均最大66±14 mmHg)。したがって、口を少し開け、片側ずつ、やさしく短くを基本にし、詰まっている側は先に洗浄→軽くかむの順を勧めます。

また、前述のように過度な鼻かみは中耳へ圧がかかり、「鼻を強くかみすぎると中耳炎になる」ことがあるため注意が必要です。

また、鼻づまりがひどいときに無理に鼻をかもうとして、鼻の粘膜を傷つけてしまうケースもあります。かみすぎによる粘膜ダメージで出血したり、炎症が悪化すると治癒が遅れる原因になります。

さらに「鼻ほじり」も絶対にやめるべき習慣です。指や綿棒で鼻の中を頻繁にいじると、鼻の入り口(鼻前庭)の皮膚や粘膜に傷が付きます。

その傷から細菌が侵入すると鼻前庭炎や鼻の中の毛穴の感染(できもの)、さらには鼻出血を引き起こすことがあります。特に蓄膿症で鼻水が出るときは鼻の下や鼻孔周囲も荒れやすいため、鼻ほじり行為は炎症を広げる原因になりかねません。

正しい対処

鼻は優しくかみ、ほじらないことが原則です。どうしても鼻の中にかさぶたや固まった鼻くそがあって気になる場合は、無理に指を入れずに蒸しタオルで鼻を外側から温めてみてください。鼻腔内が湿って柔らかくなるとかみ出しやすくなります。市販の鼻腔用ワセリンを少量、綿棒で鼻の入口付近に塗ると粘膜の乾燥を防げます。

蓄膿症で鼻の中が荒れている時期は、刺激の強いメントールやアルコール成分の入った鼻ケア用品はしみる場合があるため避けた方が無難です。

市販の点鼻薬や内服薬の多用

鼻づまり解消のための市販薬の使いすぎにも注意が必要です。ドラッグストアで買える点鼻薬(鼻スプレー)には、血管収縮剤が含まれているものが多く、一時的に鼻粘膜の血管を収縮させて腫れ(炎症)を抑える作用があります。確かに使用直後はスッと鼻が通り症状が楽になりますが、これはあくまで対症療法(症状を一時しのぎする処置)です。

長期間・頻繁に使い続けるうちに薬が切れたときにリバウンドで鼻づまりが悪化するようになってしまいます。このように市販点鼻薬の乱用で起こる慢性的な鼻づまりを「薬剤性鼻炎」と呼び、蓄膿症をかえって悪化させる原因となります。

また、「風邪薬」を長期間飲み続けることも避けましょう。市販の総合感冒薬にも鼻水・鼻づまりを和らげる成分が含まれており、一時的に症状は緩和します。しかし根本的な副鼻腔の膿や炎症自体を治す効果はなく、風邪薬には不要な成分も多く含まれるため長期連用すれば副作用のリスクがあります(胃の不調、眠気、便秘など)。蓄膿症を疑う症状が1週間以上続く場合、市販薬で紛らわせながら何週間も過ごすのは得策ではありません。

正しい対処

どうしても鼻が詰まって寝られない夜などは、点鼻薬を使っても構いませんが「1日の使用回数・期間の目安」を必ず守ってください(通常、血管収縮剤点鼻薬は1日3-4回まで、連続使用は10日程度までが推奨目安です)。

長引く蓄膿症には、病院で原因に応じた治療を受ける必要があります。例えば細菌感染が続いている場合は抗生物質の適切な投与、アレルギーが関与する場合はステロイド点鼻薬や抗アレルギー薬の処方、ポリープが大きく鼻を塞いでいる場合は手術も検討されます。

耳鼻科では、副鼻腔の状態をCTや内視鏡で評価し、蓄膿症のタイプ(細菌性か好酸球性か、ポリープの有無など)に合わせた治療法の提案ができます。

蓄膿症の症状を放置すること

「たかが鼻づまり」と放置するのは非常に危険です。蓄膿症は早めに適切な治療をしないと、症状が長引くだけでなく様々な合併症を引き起こす恐れがあります。

例えば副鼻腔の炎症が周囲に広がれば、中耳炎を併発して耳が聞こえにくくなったり、眼球の周囲に感染が及んで視力障害や失明のリスクもあります。さらに稀なケースですが、副鼻腔で増殖した細菌が脳にまで達すると脳膜炎(のうまくえん)や脳膿瘍(のうのうよう:脳に膿が溜まる病気)を起こし、命に関わる事態にもなりかねません。深刻な合併症はまれですが、「鼻だけの病気」と油断してはいけないということです。

また、蓄膿症の原因によっては放置しても自然には絶対によくならないケースもあります。例えば上顎洞炎の原因が歯の根元の感染(いわゆる歯性上顎洞炎)の場合、虫歯治療や抜歯など歯科的処置をしない限り副鼻腔炎は治りません。鼻の治療と並行して原因歯の治療が必要です。これを怠ると何度も副鼻腔炎を再発してしまいます。

同様に、好酸球性副鼻腔炎(こうさんきゅうせいふくびくうえん)というアレルギー性の難治性副鼻腔炎では、適切なステロイド治療を行わないとポリープがすぐ再発し慢性化します。このように専門的な見極めと治療が必要なケースもあるため、自己判断で放置するのは非常にリスクが高いのです。

正しい対処

「風邪が長引いているだけ」と思っていたら実は副鼻腔炎だった、ということは少なくありません

鼻づまりや膿の混じる鼻水が10日以上続く、あるいは嗅覚低下や頬の痛みがある場合は早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう

耳鼻科では鼻内視鏡検査やレントゲン/CT検査で副鼻腔の中まで詳しく調べてくれます。蓄膿症と診断されれば、症状に応じて抗生剤や粘膜炎症を抑える処置など適切な治療を受けることで症状は改善します。

日常生活では前述のようなセルフケア(禁煙・鼻洗浄・安静など)を心がけつつ、医師の指示通りに薬を飲みきることも大切です。症状が改善した後も自己判断で治療を中断せず、医師に完治と言われるまで治療を継続してください。

蓄膿症は適切に対処すれば決して治らない病気ではありません。放置せず早めに対処することで、慢性化や重篤な合併症を防ぐことができます。

正しいセルフケアと再発予防のポイント

最後に、蓄膿症の症状を悪化させないための日常生活でのセルフケアポイントをまとめます。

  • 鼻腔の清潔保持:常に鼻をかんで副鼻腔の膿を排出する習慣をつけましょう。朝晩や外出後には生理食塩水で鼻うがいを行うと、鼻腔内の雑菌やアレルゲンを洗い流せて効果的です。鼻をかむときは片方ずつ優しく行い、決して強くかみすぎないこと。

  • 禁煙・禁酒と十分な休息:タバコの煙や過度の飲酒は症状を悪化させるので避けます。代わりに部屋の加湿や蒸気吸入で鼻粘膜の乾燥を防ぎ、ぬるめの入浴で血行を良くすると鼻づまりの緩和につながります。睡眠と栄養を十分にとり、体の抵抗力を高めてください。

  • 適切な室内環境:エアコンの風やほこりっぽい環境は鼻粘膜を刺激します。空気清浄機の使用やこまめな掃除でハウスダストを減らし、加湿器などで室内の適度な湿度(50〜60%程度)を保ちましょう。乾燥した空気は粘膜を乾かして膿が粘稠になり、排出しにくくなります。

  • アレルギー対策:アレルギー性鼻炎や花粉症を持っている方は、その治療も並行して行いましょう。アレルギーがコントロールされると副鼻腔炎も改善しやすくなります。花粉シーズンはマスクやメガネを着用し、帰宅時の洗顔・鼻うがいでアレルゲンを速やかに洗い流してください。

 

記事執筆者

池袋ながとも耳鼻咽喉科
院長 長友孝文
日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会 専門医    


医院情報


医院名  池袋ながとも耳鼻咽喉科


所在地  〒170-0012 
      豊島区上池袋4-29-9  北池テラス4階


電話番号 03-6903-4187 


診療科目 耳鼻咽喉科 / 小児耳鼻咽喉科 / アレルギー科


 

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