春に耳づまりや気圧による耳の痛みが起きやすい理由
春は気温の寒暖差や気圧変動が大きく、さらに花粉の飛散によるアレルギー症状も加わる季節です。そのため「耳が詰まった感じがする」「気圧の変化で耳が痛む」といった不調を訴える人が少なくありません。実際、梅雨の時期には天候の変化に伴う 気象病 の一種として、明らかな炎症がないのに「耳が痛い」「耳が詰まって聞こえにくい」などと訴える患者さんが増えることが報告されています。
このような気圧変化による耳の不調は、梅雨だけでなく 春先の寒暖差が大きい時期 や台風シーズンなど、気圧の変化が激しい時期にも多く見られます。以下では、春に耳づまりや耳の痛みが起こりやすくなる原因を、医学的な観点から詳しく解説します。
春の気圧・気温変化が耳に与える影響
春は低気圧と高気圧が頻繁に入れ替わり、短期間で気圧が大きく上下することがあります。気圧の急激な変化 は耳に影響を与え、耳の痛みや耳鳴り、耳の詰まった感じ(耳閉感)といった症状を引き起こすと言われています。私たちの中耳(鼓膜の内側の空間)は、通常「耳管」を通じて外の空気と圧力が等しく保たれるようになっています。しかし周囲の気圧が短時間で上下すると圧力差が生じ、耳管の調節が追いつかないことがあります。その結果、鼓膜の内外で圧力差が生じて鼓膜が引っ張られ、山や飛行機で耳抜きができない時のような痛み や詰まった感じが起こります。特に気圧が急に低下したときに症状が出やすいとされます。
加えて、春先の 気温変化 も見逃せません。寒暖差が大きいと体の自律神経のバランスが乱れやすく、それに伴って耳の調子も崩れやすくなります。気温や気圧の変動が激しいときには交感神経・副交感神経の切り替えがうまくいかず、めまいや耳鳴りなど体調不良が起こりやすいことが知られています。
また、最近の研究では内耳(耳の一番奥にある平衡感覚や聴覚を司る部分)に気圧の変化を感知するセンサーのような神経細胞があり、急激な気圧変化を感知するとその情報が脳に伝わって自律神経の働きに影響を与えることが分かってきました。
この自律神経の乱れによって血流が変化し、耳鳴りや耳の痛みが引き起こされるとも考えられています。つまり春の不安定な気象は、物理的な圧力差 と 自律神経の乱れ の双方から耳に負担をかけているのです。
花粉症など春のアレルギーが耳の症状に与える影響
春といえばスギやヒノキの花粉症の季節です。花粉症は主にくしゃみ・鼻水・鼻づまり・目のかゆみなど鼻や目の症状がクローズアップされますが、実は 耳にも影響 を与えることがあります。花粉症シーズン中、「耳がこもるように聞こえにくい」「自分の声が響いて聞こえる」「耳鳴りがする」といった症状を訴える方もいます。具体的には以下のような耳の不調が起こり得ます:
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耳閉感(耳が詰まった感じがする)
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音が遠くこもって聞こえる、聞こえにくい
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自分の声が耳の中で響く(自声強調)
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耳鳴りや軽いめまい
これらは花粉症による アレルギー性鼻炎 が原因となって現れる耳の症状です。そのメカニズムの鍵を握るのが前述した「耳管」です。
鼻と中耳をつないでいる 耳管(じかん) は、中耳内の空気を入れ替え圧力を調整する重要な役割を持っています。花粉などのアレルゲンが鼻に入ると免疫反応で鼻粘膜が腫れて強い鼻づまりが起こりますが、その鼻の奥(上咽頭)の腫れが耳管の入り口にまで及んでしまうことがあります。
耳管の入口が腫れでふさがると、中耳と外の空気との通り道が遮断されてしまい、中耳の圧力調整がうまくできなくなります。その結果、鼓膜の内側の圧力が下がって動きが悪くなり、「耳が詰まった」「音が響く」「聞こえにくい」といった症状が現れるのです。これはちょうど鼻をつまんだまま飛行機に乗っているような状態で、あくびをしたり唾を飲み込んだりしても耳管自体が腫れて開かないため耳抜きができず、常に耳がこもった感じになります。
花粉症による鼻づまりが長期間続くと、この耳管の機能障害(耳管狭窄ぎみの状態)が慢性化し、中耳の換気不良が長引くことで 滲出性中耳炎(中耳に液体が溜まる状態)を引き起こすことがあります。滲出性中耳炎になると鼓膜の奥に粘液が溜まり、さらに聞こえが悪くなるだけでなく、細菌感染を起こせば痛みや発熱を伴う急性中耳炎へ進展する恐れもあります。
実際、花粉症の季節に鼻づまりを放置していて中耳炎になってしまうケースや、「春だけ聞こえが悪い」という訴えで受診したら滲出性中耳炎になっていたというケースもあります。花粉症のシーズンに耳の不調を感じたら、鼻の治療も含めて早めに対処することが大切です。
耳管の機能(耳管開閉障害・耳管狭窄)と耳づまりの関係
中耳は外耳とは鼓膜で仕切られていますが、奥の上咽頭(鼻の奥)へ細い管(耳管)が通じています。通常、耳管は普段は閉じており**あくびや嚥下(唾液を飲み込む)の瞬間だけ開いて、中耳内の空気を入れ換えています。これによって中耳の圧力を外気圧と等しく保ち、鼓膜が内外の圧力差で押されたり引っ張られたりしないように調整しているのです。耳管が正常に機能していれば、たとえばトンネルに入った時や高い山に登った時に生じる耳の圧迫感(耳がツーンとする感じ)も、唾を飲み込むことで素早く解消できます。
しかし 耳管機能に障害 があると、気圧変化への適応がうまくできず耳が詰まった状態が続いたり痛みを感じたりします。耳管機能の障害には大きく2種類あり、一つは先述のように耳管がうまく開かない状態(耳管狭窄症)、もう一つは逆に耳管が常に開きっぱなしになる状態(耳管開放症)です。春の症状との関係が深いのは前者の耳管狭窄タイプですが、後者の耳管開放症についても簡単に触れておきます。
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耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう): 耳管が慢性的に塞がり気味になって、あくび・嚥下でも十分に開通しない状態です。耳管が開かないため中耳の空気が次第に吸収されて圧力が下がり、鼓膜が内側に引っ張られて「耳が詰まった感じ」や軽い難聴の症状が現れます。鼻炎や副鼻腔炎で耳管の入口が腫れている場合や、子どものように耳管自体が細い場合に起こりやすく、航空機や高所・潜水時など気圧変化が大きい環境では急性に強い耳の痛み(航空性中耳炎)を生じることもあります。
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耳管開放症(じかんかいほうしょう): 耳管が本来閉じているべきときにも開きっぱなしになっている状態です。耳管開放症では自分の声や呼吸音が筒抜けになって響く(自声強聴)ほか、耳がこもった感じ(耳閉感)も生じます。耳管開放症は体重減少や妊娠などで耳周囲の脂肪組織が減少したときに起こりやすく、若い女性に多いのが特徴です。春特有の症状というわけではありませんが、冬場にダイエットしすぎて春先に耳管開放症状が出る例や、軽度の開放症状が春の自律神経の乱れで悪化して自覚される例もあります。症状が続く場合は耳鼻科での治療(薬剤や耳管通気処置など)が必要です。
いずれにせよ、耳管の開閉がスムーズにいかない耳管開閉障害の状態では、春の気圧変化やアレルギーによる鼻づまりの影響を受けやすくなります。逆に言えば、耳の詰まりや痛みを感じる背景には耳管機能の低下が関与しているケースが多いのです。
春に症状が悪化しやすい人の傾向
春の環境で耳の症状が特に出やすいのは、以下のような傾向のある人です。
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アレルギー体質の人(花粉症・アレルギー性鼻炎がある人):鼻粘膜のアレルギー反応により耳管が影響を受けやすく、春先に耳の閉そく感や一時的な難聴を起こしやすくなります。花粉症の症状(鼻づまり)が強い人や、鼻炎を放置しがちな人では特に注意が必要です。
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子ども(小児):小児は大人よりも耳管が太く短く、しかも傾きが水平に近いため、鼻の奥の炎症が中耳に波及しやすい構造です。そのため春の鼻づまりから中耳炎を起こしやすく、耳が痛い・聞こえにくいといった症状が出やすい傾向があります。実際、「子どもは鼻水が出たら早めに耳鼻科を受診しましょう」と言われるのは、子どもが中耳炎に発展しやすいからです。花粉症のみならず風邪でも同様なので、春先は注意が必要です。
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高齢者:高齢の方は耳管周囲の組織の衰えなどから耳管機能が低下しやすくなります。耳管を開く筋力が弱まったり粘膜の換気能が落ちたりするため、若い頃は感じなかった気圧変化で耳が詰まる・痛むといった症状を自覚することがあります。高齢者はまた加齢による難聴が進行していることも多く、そこに気圧や花粉の影響が加わると一層聞こえづらさを感じる場合もあります。
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気圧変化に敏感な人:いわゆる天気痛・気象病を起こしやすい体質の人も、春には耳の不調を感じやすい傾向があります。とくに女性は気圧変動による不調を訴える割合が男性より高いとの報告もあり、片頭痛持ちの方やメニエール病など内耳の疾患がある方は、春先に症状が悪化しやすいと言われます。こうした方は天気予報に留意し、気圧の大きな変化が予想される日はいつも以上に体調管理に気を付けると良いでしょう。
症状を軽減するための予防策・対処法
春に耳づまりや耳の痛みを感じやすい方でも、日頃からいくつかの対策を講じることで症状を予防・軽減することが期待できます。
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花粉・ハウスダスト対策:まずアレルギー症状を悪化させないことが重要です。花粉症の方はシーズン前から抗アレルギー薬を服用したり、花粉飛散中はマスクやメガネで花粉をできるだけ防ぐようにしましょう。外出後は衣服や髪についた花粉を払い落とし、洗顔・手洗い・うがいを行う習慣も有効です。室内では空気清浄機を使ったり、こまめな掃除でホコリや花粉を除去してください。
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鼻のケア:鼻づまりを放置しないことが耳の負担軽減につながります。市販の生理食塩水スプレーなどで鼻腔を洗浄したり、蒸しタオルで鼻周囲を温めて血行を良くすると鼻づまり緩和に役立ちます。耳鼻科で処方される点鼻用ステロイド薬や抗アレルギー薬の内服も効果的です。これらにより鼻の粘膜の炎症を抑えることで、耳管の通りを良くし耳の症状改善につながります。
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耳管を積極的に開く習慣:気圧の変化を感じたり耳に違和感を覚えたら、意識的に 耳抜き(耳管通気)をしてみましょう。あくびをしたり唾を飲み込んだりする動作は耳管の開閉を促し、中耳の圧力を外気に合わせるのに有効です。ガムを噛んだり飴を舐めたりして唾液を出すのも良い方法です。ただし鼻を強くかむのは逆効果です。片方ずつ優しくかみ、決して両鼻を一度に思い切りかまないでください。強すぎる鼻かみは鼓膜に過剰な圧力がかかり、かえって中耳に炎症を起こしたり耳管機能を悪化させる恐れがあります。
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環境を整える:室内の温度・湿度管理も大切です。乾燥した空気は鼻や喉の粘膜を刺激して炎症を悪化させるので、加湿器などで適度な湿度(50〜60%程度)を保ちましょう。加湿と同時に適切な換気も行い、ホコリや花粉を溜めない清潔な環境を心掛けることで、鼻や耳への負担を減らすことができます。
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全身のコンディションを整える:自律神経のバランスを保つため、十分な睡眠と休息を取り、ストレスを溜めないようにしましょう。耳周囲の血行を良くする軽いマッサージ(耳たぶを優しく引っ張る、耳の付け根をほぐす等)も、内耳の血流改善とリラクゼーション効果で気象病の予防に有効とされています。適度な運動や入浴で全身の血行を促進することも、自律神経を整える助けになります。
以上のような対策を行っても 耳の詰まり感や痛みが長引く場合 は、早めに医療機関で相談しましょう。耳が詰まった感じが2週間以上続く、聞こえにくさが日常生活に支障をきたす、強い耳の痛みや耳鳴りがある、発熱や耳だれを伴うといった場合は耳鼻咽喉科を受診して原因を調べてもらうことが大切です。中耳炎など明確な治療すべき疾患が隠れている可能性もありますし、そうでない場合も適切な薬や処置で症状が軽減できることがあります。
耳は季節や体調の影響を受けやすいデリケートな器官です。春先はぜひ鼻・耳のケアと体調管理を万全にして、快適に過ごしましょう。